第5回
Web幾何学
今甦る数理物理の豊穣な素材 : 織物理論の秘密を解明!
1997年11月28日(金)14:30 〜 11月29日(土)1 6:30
於 : 東京都 文京区 春日1--13--27 中央大学 理工学部5号館
5534号室
11月28日(金)
14:30〜15:45
なぜ2重 Translation 面からリーマン面がでてくるか?
: 中居 功 氏 (北大・理)
16:30〜17:45
計算図表、WEB、微分方程式の標準化とツイスター理論 -I
: 佐藤 肇 氏 (名古屋大学・多元数理)
11月29日(土)
10:30〜11:45 Webの微分幾何の初歩 : カルタン、ブラシュケ、
チャーンから
現在まで : 中居 功氏 (北大・理)
13:20〜14:35 計算図表、WEB、微分方程式の標準化とツイス
ター理論 -II
: 佐藤 肇 氏 (名古屋大学・多元数理)
15:10〜16:25
幾何光学におけるWAVE FRONT の Web幾何学の試み
: 中居 功 氏 (北大・理)
連絡先 : 112 東京都文京区春日 1-13-27 中央大学 理工学部 数学教室
tel : 03-3817-1745
ENCOUNTER with MATHEMATICS : e-mail : encmath@math.chuo-u.ac.jp
homepage : http://www.math.chuo-u.ac.jp/ENCwMATH
三松 佳彦 : yoshi@math.chuo-u.ac.jp / 高倉 樹 :
takakura@math.chuo-u.ac.jp
1. なぜ2重 Translation 面からリーマン面がでてくるか?
:リー、ポアンカレ、ヴィルティンガー、ダルブーの仕事
2. Webの微分幾何の初歩:カルタン、ブラシュケ、チャーンから現在まで
3. 幾何光学におけるWAVE FRONT の Web幾何学の試み
中居 功 (北海道大学・数学教室)
Web幾何学
とは1920年代にBLASCHKEにより名づけられた、
(一時はハチの巣幾何学などと呼び誤解をまねいたこともあるが)現代の用
語によれ
ば、いくつかの葉層の重ね合せの
幾何構造の研究の総称である。なぜそのような物を考えるのだろうか?
素朴には、波は幾重にも重なっているとき豊かな構造をもつし、また微分方
程式
の解曲線は葉層の重ね合せをなすからといえる。が、意外にも
最初の
深い結果は
リーマン面のヤコビアンの中のテータ因子の研究からでてきた。
それから100年以上かかってゆっくりと着実に発展してきた。
Web幾何学は、BLASCHKE以前は異なる興味のもとに
様々な方法で研究されてきた。この講義ではその中の大きな二つの歴史的
トピックの紹介をする。代数幾何以前のリーマン面の幾何学ではじまり、現
代へととぶ。
また最後に、幾何光学におけるWAVE FRONT のなすWeb 構造がきわめて自然に
Web幾何
学の枠組みにあてはまることをいくつかの例をとって
説明する。
第一回目では
1880年ころの
LIEのTranslation曲面の研究での大発見、
それに続くPOINCARE, WIRTINGER、DARBOUXの仕事を紹介する。
n次元ユークリッド空間のTranslation曲面とは、n本の空間曲線 の点のベ
クトルと
しての和全体の集合
のことをいう。この曲面は例えば古く
はMONGE
によって詳しくしらべられている。
リーマン面Cのヤコビアンの中に棲むテータ因子
はもともと
標準積分曲線による葉層構造を備えているが、まさにそれがTranslation曲面
の最も
重要な例である。少し詳しくいうと
はCのg-1個の点の形式和
によってパラメトライズされるが、これが
ベクトルの和によるTranslation構造をあらわしている。
アーベルの定理は、D+EがCの正則1形式の0点集合(標準因子)である
とき
0ベクトルに恒等的に等しいことをいうが、これはテータ因子
がD
とEに
よるふたつのTranslation構造を持つことを言っている。このような曲面を
2重Translation面という。LIEの発見は、全ての局所的な2重Translation面
は
あるテータ因子
の一部分であり、また局所的2重Translation構造は
曲面に
対してあるとすれば唯一であることである。
これらの美しい結果も、LIEの証明が偏微分方程式を用い、また不透明であっ
たこと
もあり、すぐには理解されなかったが、
10年程後にPOINCARE, さらに後にDARBOUXによってよりよい証明がつけられ
た。上
の表現は彼等によるところが大きい。(現在TORELLIの名で呼ばれているリー
マン面
のヤコビアンの定理もここでの議論からすぐにわかるが、1880年には彼
はまだ現
われていない。)
とくにDARBOUXによる証明は、現在も指針をあたえている。ここにはいくつも
の
すばらしいアイディアが輝いている。
第二回目では CARTAN, BLASCHKE-BOL によるWebの微分幾何の初歩と線形化
の問題、
それにまつわるトピックを紹介する。これはWeb幾何学のもう一つの生い立ち
を知る
上でかかせない。
Webの微分幾何はすでにCARTANの一変数の一階常微分方程式
の直
積形の変
数変換、
による分類問題の研究の中にみられ
る。この
変数変換は解曲線による葉層のほかに座標関数による葉層を保つ。CARTANは
xy-平
面上にアフィン接続を定義し、それが方程式の不変量であることを示した。
一般に、平面にd個の葉層があるとき、それをd-Webとよぶ。
それら葉層をなす曲線すべてが満たす2階常微分方程式は容
易に書き
下せるが、d-Webの分類はその2階常微分方程式の分類とも考えられる。
ほぼ同じ19世紀終にTRESSE, CARTANの2階常微分方程式
の
研究があるが、
それによってy"=0と同値になるための条件が知られている。これはWebの線
形化、
つまり座標変形でWebの曲線すべてを直線にできるための条件にほかならな
い。
線形化できれば各曲線の双対をとることで双対射影空間のd個の曲線片がで
きるが
、DARBOUXの結果によれば、ある条件でそれが一本の代数曲線に拡張し(代数
化)リ
ーマン面ができあがる。現在も一般次元での線形化はWeb幾何学の最も重要な
問題で
あり未解決である。BOLは平面のd-Webでアフィン接続が平坦なものを分類
し、その
なかで
唯一、線形化できない例外BOL Webとよばれる5-Webを発見し、それの5つ
の葉層の
定義関数の満たす関係式(ABEL方程式)としてROGER dilogarithmのいまでは
よく知
られた5項関係式が現われることを示した。
また例外BOL WebはMACPHERSON,DAMIANOによって高次元化されている。
もう一つの展開として、アフィン接続を不変に保つWebの変形の問題がある。
1-形式の線形族のなかで可積分なd個の1形式のなすd-Webはすべて
共通のアフィン接続をもつが、そのような性質を持つものは線形族からくる
ものに限
ることが最近証明できた。
1-形式の射影線形空間のなかで可積分条件をみたすVeronese曲線をVeronese
Webと
いう。GELFAND-ZEKHAREVICHによればVeronese Webと奇数次のBihamiltonian
system
は1対1関係にあることが知られている。
第三回目では、幾何光学におけるWave front(波面)の時間による
PropagationのWeb
幾何学を考える。
上のWave frontのPropagationは射影余接空間のn次元曲面Sとそ
の上の
時間関数による余次元1葉層で与えられる。S上で時間=tの超局面の
底空間への射影が時刻tの波面となる。例えば、ひだを寄せながら砂浜に寄
せる波
を思いうかべればわかるように、波面は互いに重なりあっている。いいかえ
れば、
S上の時刻による葉層は底空間に射影したとき、様々なWeb構造をなしてい
る。この
Webの
特異点集合がCausticsである。
Sでの時刻による葉層のBOTT接続は自然なCHERN接続と呼ばれるSの葉層を
保アフ
ィン接続に拡張する。これを底空間の射影すると、そこでの平均接続の曲率
形式、つ
まり平均曲率
がBLASCHKE曲率となる。
このBLASCHKE曲率形式が面白い! それは波の位相をの観察している空間上
で微分幾
何的にとらえているのだが、その
CausticsにそってWebの特異性に応じて極をもつのである。また
Webのmoduli空間と、いくつかの例での観察ではあるが、1対1対応にある。
これら
の枠組みはまだ、作ったばかりで中味はそう多くないが、とても美しいと思
うのは私
だけだろうか?
REFERNCES
1. W.Blaschke & G.Bol, Geometrie der GeWebe, Grundlehren
der Mathematischen
Wissenschaften, Springer, 1938.
2. I.Nakai, Web幾何学:ミクロコスモス, 竜谷大学科学技術共同研究セン
ター, 講究録、
1996, 29--98.
最近のデジタル型コンピューターの発展により、影がうすくなったが、 もう一度アナログ型コンピューターを考えてみよう。 もう中年にしか記憶にないかもしれないが、計算尺を知っている人も多いで あろう。 計算図表は、計算尺をやや複雑にしたものであり、WEB 理論の基となった。
問題:空間での関数
が与えられた時、
を満たす組
を求めよ。あるいは
に対
して、
を満たす
を探せといってもよい。
例 1
この時は、積がx、和が -y となる2つの数 を求めよという問
題となる。
例 2
解法 1 となる
陰関数
を求めればよい。
より図形的にこのような解を求める方法は次のようになるであろう。
解法 2 は空間の一つの曲面を定める。その曲面
の
における高さが求める
の価となる。
解法 3 さらに、平面上で解を知るには、曲面
の
という等高線を細かく引いて、
という直線と交わる等高線の示している高さ
をみればよい。この方法
は、
という曲面を与えると、
x=constという直線による一組の族、 y=constという直線による一組の族、z=constという曲線による 一組の等高線の族が与えられているとみなしている。
これが共点図表で、いいかえれば、平面の3-WEBでもある。
例1の場合を考えると、 z=const という曲線も、すべて直線になり、
3組の直線族による 3-WEB となる。
例2は、そうではないが,
平面の という座標変換により、直線族となる。
このように、曲線の族による平面の 3-WEB を、座標変換により、直線族によ る 3-WEB
とみなすことが 出来るかというのが、共線図表(=計算図表(狭い意味で))化可能性とい う、 計算図表学の基本問題であり、また WEB理論、微分方程式論の中心問題でも ある。 この解答は、ツイスター理論と密接な関係があることがわかる。