ENCOUNTER with MATHEMATICS ----- 数学との遭遇


第8回

TORIC幾何

代数幾何と凸幾何の架け橋





1998年6月12日(金)15:00 〜 6月13日(土)17:00

於 : 東京都 文京区 春日1--13--27 中央大学 理工学部5号館 5534号室



6月12日(金)
15:00〜16:20  トーリック幾何への招待 I : 小田 忠雄 氏 (東北大・理)

17:00〜18:00  トポロジーから見たトーリック多様体論 I : 枡田 幹也 氏 (阪市大・理)

6月13日(土)
10:30〜12:00 トポロジーから見たトーリック多様体論 II : 枡田 幹也 氏 (阪市大・理)

14:00〜15:10 log scheme 理論入門 : 諏訪 紀幸 氏 (中大・理工)

15:40〜17:00  トーリック幾何への招待 II  : 小田 忠雄 氏・佐藤 拓 氏 (東北大・理)




別紙の趣旨に沿った集会の第8回を以上のような予定で開催いたします。 非専門家向けに入門的な講演をお願い致しました。 多く方々のの御参加をお待ちしております。 講演者による講演内容へのご案内を添付いたしますので御覧下さい。

連絡先 : 112 東京都文京区春日 1-13-27 中央大学 理工学部 数学教室 tel : 03-3817-1745
ENCOUNTER with MATHEMATICS : e-mail : encmath@math.chuo-u.ac.jp
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三松 佳彦 : yoshi@math.chuo-u.ac.jp / 高倉 樹 : takakura@math.chuo-u.ac.jp





トーリック幾何への招待

小田 忠雄・佐藤 拓(東北大・理)


トーリック幾何は, 代数幾何と凸体・格子点の幾何とを関連付ける理論である. その基本原理は極めて簡単であるにも拘わらず, Demazure, Mumford達のグループ, 佐武, 三宅・小田により 1970年代初頭に創始されて以来, 現在もなお発展を続けている. 参考文献欄に挙げたように, 総合的解説や展望(サーベイ)に限っても, 既に 多数出版されている. ユニタリー・トーリック多様体やlog幾何等, 今後ともまだまだ発展の可能性を秘めていることを, 今回の一連の講演を通じておわかり頂ければ幸いである.

ここでは, 時間の関係で触れる余裕はないが, トーリック幾何は アーベル多様体理論とも相性が良い. そもそもトーリック幾何創設の 動機の一つが, アーベル多様体のモジュライ空間のコンパクト化であった. トーリック多様体の場合の代数的トーラスの代りに 半アーベル多様体を考える試みもAlexeev・中村・名児耶により始められている.

ここでは, トーリック幾何において基本的役割を演ずる``扇''の定義をまず 紹介する. 基本定理によれば, 扇にはトーリック多様体と呼ばれる代数多様体が 対応し, 扇の初等幾何学的・組合せ論的性質と, トーリック多様体の代数幾何学的性質とを対応づける辞書が存在する. その辞書を通じることによって, 例えばトーリック多様体の双有理幾何の問題が, 扇の細分の問題に翻訳される. 同一次元の非特異完備トーリック多様体同志は互に双有理であるが, それぞれに何回か同変blow-upの操作を施すことによって共通のトーリック 多様体に到達できるかとの基本的問題を1970年代に提起したのであるが, 最近になって遂にW odarczykにより弱い形が, Morelliによって強い形が 証明されるに至った. (Abramovich・松木・Rashidにより証明の補足も行われた.) この例でも明らかなように, 代数幾何における基本的問題の解決を試みる場合, トーリック多様体の場合にまず実験的に取組んでみることがしばしば行われる. トーリック幾何が, 代数幾何の格好の実験場となっているのである. (森理論と呼ばれる極小モデル問題の場合には, Reidによるトーリック多様体版 が先駆けとなった.)

トーリック多様体は, 代数多様体としては極めて単純なものであり, アフィン空間や射影空間の一般化と考えることもできる. その意味で, 興味ある代数多様体のambient空間としての役割が期待できる. 例えば, 数理物理学との関係で最近注目を浴びているCalabi・Yau多様体の 内で, (非特異あるいはもっと一般にGorenstein特異点を許容する) トーリックFano多様体をambient空間とするものが極めて興味深い. トーリック幾何によれば, トーリックFano多様体は, 反射的多面体と呼ばれる(格子点を頂点とする) 凸多面体に対応しており, Calabi・Yau多様体の鏡映対称現象が, 反射多面体の双対現象と対応していることをBatyrevが見出し, トーリック幾何が数理物理学における基本的道具の一つとなるに至ったようである.

参考文献

  1. D. A. Cox, Recent developments in toric geometry, in Algebraic Geometry Santa Cruz 1995 (J. Kollár, R. Lazarsfeld and D. R. Morrison, eds.), Proc. Symposia in Pure Math. 62.2 (1997), Amer. Math. Soc., 389--436.

  2. V. I. Danilov, The geometry of toric varieties, Russian Math. Surveys 33 (1978), 97--154.

  3. G. Ewald, Combinatorial Convexity and Algebraic Geometry, Graduate Texts in Math. 168, Springer-Verlag, 1996.

  4. W. Fulton, Introduction to Toric Varieties, Ann. of Math. Studies 131, Princeton Univ. Press, 1993.

  5. G. Kempf, F. Knudsen, D. Mumford and B. Saint-Donat, Toroidal Embeddings I, Lecture Notes in Math. 339, Springer-Verlag, 1973.

  6. T. Oda, Lectures on Torus Embeddings and Applications (Based on Joint Work with Katsuya Miyake), Tata Inst. of Fund. Research 58, 1978.

  7. 小田忠雄, 凸体と代数幾何学, 紀伊國屋数学叢書 24, 紀伊國屋書店 1985.

  8. T. Oda, Convex Bodies and Algebraic Geometry---An Introduction to the Theory of Toric Varieties, Ergebnisse der Math. (3) 15, Springer-Verlag, 1988.

  9. T. Oda, Geometry of toric varieties, in Proc. Hyderabad Conf. on Algebraic Groups (S. Ramanan, ed.), Manoj Prakashan, Madras, 1991, 407--440.

  10. 小田忠雄, トーリック多様体論の最近の発展, 数学 46巻4号(1994), 35--47; 英訳: Recent topics on toric varieties, in Selected Papers on Number Theory and Algebraic Geometry (K. Nomizu, ed.), Amer. Math. Soc. Transl. (2) 172 (1996), 77--91.




トポロジーから見たトーリック多様体論

枡田 幹也 (大阪市立大学大学院理学研究科・理学部)


「トーリック多様体」(toric variety) という代数幾何学の対象と 「扇」(fan) という 組み合わせ論の対象の間に、1対1対応がある。これにより、組み合わせ論の問題を、 代数幾何学の問題に翻訳し代数幾何学の定理(例えば Riemann-Roch、強Lefschetz) を用いて解くということがしばしばあった。R. Stanley による g-予想の解決は、その 最たるものであろう。異なる数学分野を結ぶこの様な架け橋に、私は魅了される。

本講演では、トーリック多様体論をトポロジーの立場から眺め、トーリック多様体論 のトポロジー版を考える。つまり、トポロジーと組み合わせ論 の間に架け橋を構築することを試みる。

トポロジーの観点からすると、対象をトーリック多様体に限る必要はない。 「ユニタリトーリック多様体」と呼ばれるもっと広い幾何学対象を取り扱うのが 自然である。 その際現れてくる組み合わせ論の対象は、扇が幾重にも重なった「多重扇」 (multi-fan) である。この多重扇の重なりの次数は、Todd 種数に対応する。 よく知られているように、トーリック多様体の Todd 種数は1である。 (我々の立場からすると)それ故、トーリック多様体の扇は、重なりのないものとなる と解釈できる。

我々の議論では、同変コホモロジーが中心的な役割を演ずる。 これは1960年頃 A. Borel によって導入され、群作用の情報をよく含んでいる ことが知られている。また、同変K群などより取り扱いやすいという利点がある。 しかし、一部の専門家を除いては、同変コホモロジーはあまりポピュラーではない ようである。 1回目の講演では、同変コホモロジーが(ユニタリ)トーリック 多様体と相性が良いことを観る。我々の多重扇は、同変コホモロジーを用いて 定義される。2回目の講演では、Riemann-Roch 指数の重複度公式、Pick 公式の 一般化等を考える。

以上の書き方では、我々の議論がトーリック多様体論を含んだ形で展開されている 様な印象を与えるが、そうではない。以下の2つの問題点がある。

講演の最後に、これらの問題点、今後の研究課題に触れたいと思っている。




Log Scheme 理論入門

諏訪紀幸 (中央大学・理工学部)


 加藤和也、Fontaine、Illusie によって十年程前導入された「logarithmic structureを持つ scheme」すなわち log scheme の理論は、toroidal geometry のひとつの一般化を与えているが、中山能力、梶原健、中島幸喜、加藤文元、志甫淳 といった国内の若手を中心に、近年目覚しく研究が進んでおり、広く注目を集めて いる。

本講演では、toroidal geometry との関連に主眼をおき、log scheme 理論の概説 を試みる。大学院生や専門以外の方にも、できるだけ具体的なイメージを持って もらえるように注意しながら、
(1) log scheme とは何か。それが toroidal geometry の一般化と見なせるのは何故か。
(2) どのような応用があるか。
の二点を解説することが目標である。

要点をもう少し詳しく述べよう。toroidal geometry の理論では fan が活躍した。 一方、log scheme の理論では半群が活躍する。scheme の構造層が乗法に関してなす 半群に のような 性質の良い半群を上手に絡ませて、scheme の morphism が smooth あるいは etale でなくても、あたかも smooth あるいは etale であるか のような取り扱いが可能になる。誤解を恐れずに言えば、log scheme の世界では 通常2重点を smooth な点と見なすことが出来る。具体的な応用としては、 例えば Tate curve や Mumford curve のような semi-stable reduction をもつ局所体 の上の代数多様体を考える際に、log scheme の理論は良い枠組みを提供している。

これらの点について、個人的な思い入れも交えてざっくばらんに語ってみたいと考えて いる。







Last Modified : Mar 12, 1913 : 21:29