ENCOUNTER with MATHEMATICS ----- 数学との遭遇


第12回

微分トポロジーと代数的トポロジー





1999年6月18日(金)(15:00〜17:40) 〜  6月19日(土)(10:30〜16:50)

於 : 東京都 文京区 春日1--13--27 中央大学 理工学部



6月18日(金)
15:00〜16:00 20世紀の花形数学(アダ花?):トポロジー I : 佐藤 肇 氏 (名大・多元数理)

16:40〜17:40 20世紀の花形数学(アダ花?):トポロジー II : 佐藤 肇 氏 (名大・多元数理)

6月19日(土)
10:30〜12:00 Adams 予想を巡って : 服部 晶夫 氏 (明大・理工)

14:00〜14:50 指数定理への思い入れ : 吉田 朋好 氏 (東工大・理)

15:20〜16:50 Panel Discussion : (司会) 土屋 昭博 氏 (名大・多元数理)




別紙の趣旨に沿った集会の第12回を以上のような予定で開催いたします。 非専門家向けに入門的な講演をお願い致しました。 多く方々の御参加をお待ちしております。 講演者による講演内容へのご案内を添付いたしますので御覧下さい。

連絡先 : 112-8551 東京都文京区春日 1-13-27 中央大学 理工学部 数学教室 tel : 03-3817-1745
ENCOUNTER with MATHEMATICS : e-mail : encmath@math.chuo-u.ac.jp
homepage : http://www.math.chuo-u.ac.jp/ENCwMATH
三松 佳彦 : yoshi@math.chuo-u.ac.jp / 高倉 樹 : takakura@math.chuo-u.ac.jp




無題

微分トポロジ−と代数トポロジ−

概要





20世紀の花形数学(アダ花?):トポロジー  佐藤 肇(名大・多元数理)

19世紀の終わりに、 微分方程式の解の定性的な研究をしていた Poincare は、ホモロジー群、基本群などを定義し、双対定理を示し、 代数的方法を導入することにより、位相幾何学に大きな進歩を与えた。 その後、ファイバーバンドルの理論が整備され、1930年代から 40年代には、バンドルの特性類が、Stiefel, Whitney, Pontrjagin, Chern などにより完全に決定された。

一方、球面のホモトピー群の 低いステムの決定に多様体の幾何学を用いるという、50年代はじめ のころの Pontrjagin のアイデアは、 Rohlin の3,4次元の多様体の幾何学の先駆的な研究をうみ、さらに、逆に 多様体の幾何学(コボルデイズムなど)の研究に(当時盛んになった)リー群の 位相の代数的研究を応用するという Thom の画期的な研究への道を開いた。

コボルディズムの理論を用いることにより、Hirzebruch は滑らかな多様体の 交点形式の指数は Pontrjagin 類の積分で書けることを示した。 50年代中頃、Milnor はその 等式を満たさない位相多様体を構成し、7次元の滑らかな多様体で、 球面とは位相同型ではあるが、微分可能多様体としては異なるという エキゾチックな球面の存在を示し、数学界に特大の衝撃を与えた。

また、高次元版の Poincare 予想(ホモトピー球面は球面と位相同型か?) という問題は、60年代はじめ、Smale により Morse 理論を用いて解かれた。 またこの頃、複体に対する基本予想(位相同型なら組み合わせ的に同型か?) も Milnor によって反例が与えられ、 代数的 K 理論の元となった。指数定理は一般の微分作用素の指数定理として、 Atiyah-Singer により位相的 K 理論のもとで一般化された。

エキゾチックな球面の分類には、手術の手法が使われたが、これは、さらに、 ホモトピー同値な多様体の、位相的、PL-同相的、微分同相とそれぞれのカテゴリー での分類に美しく応用された。BF, BHom, BTop, BPL, BO という分類空間の代数位相幾何的研究 とあいまって、5次元以上の多様体の分類が(単連結の場合)ほぼ完全に決定された。 これら、Browder-Novikov-Wall-Sullivan-Kirby-Siebenmann の仕事により、 多様体に対する基本予想も70年代に解決し、残されたのは、3,4次元の問題だけとな った。

4次元の多様体の基本的問題は、無限反復手術という Casson の方法と、ゲージ理論の導入により、 80年代に Freedman, Donaldson により解決されたことは皆さんの記憶に新しいことであろう。また3次元多様体について も、幾何学的構造と対応させる Thurston の研究、 ノット の新しい不変量の Jones などによる発見があり、大きく進歩した。 これら低次元の多様体の理論は、理論物理との密接な関係があることが明らかに なったが、いまだに Poincare 予想は未解決である。



Adams 予想を巡って  服部 晶夫(明大・理工)

 1960年代のトポロジーを振り返って見ると、5次元以上の多様体 の分類理論で頂点に達した微分位相幾何学の発展が一番華々しい成果を 残している。一方、 同じ60年代には指数定理が完成されようとしていた(不動点定理、族指 数定理)。そこから発する流れは今に至るも続いている。これらの動きは 若い研究者にとっても全く未知のものではな いと思われる。実はその60年代には Adams により提出された Adams 予想 が当時 の代数的位相幾何学の研究者の強い関心をよんでいた(この見解には 筆者の個人的な 思い入れがあるかもしれない)。Adams 予想はその年 代の終わりに Quillen と Sullivan により解決されたが、その解決自体 がアイディアの新しさ(Quillen)と定式化の発展性(Sullivan)により トポロジストに衝撃を与えるものであった(ここにも筆者の個人的な 思い入れがあるかもしれない)。この Adams 予想は今では人々の口の端 に上ることもなく、若い人の中ではそれがどういうものかも正確に知らない 人もいると思われる。そのような意味でこの機会に Adams 予想について振り 返ってみるのも多少の意義があると考えここで取り上げることにした。なお、 Adams 予想が(その解決の前に)何故当時関心の的であったかについて 簡単に解説しておこう。

直交群の極限を $ O=\displaystyle{\lim_{\leftarrow}}\ O(n)$ とし、群 $ G_n =\{f:S^{n-1}\to S^{n-1};f \mbox{はホモトピー同値}\} $の極限をG とする。 X を有限 CW 複体とするとX のベクトルバンドルの Grothendieck 群 KO(X) はホモトピー集合 [X,BO] と同一視される。 Sph(X)=[X,BG] とおいて自然な写像 $J:KO(X)\to Sph(X)$ の像を J(X)と書く。J(X) を求めることが当面の目標である。KO(X) については 十分な情報があるとすれば、J の核 $Ker\ J$を定めることにより J(X) が求められる。KO 理論には Adams 作用素 と呼ばれる各整数 k 毎に定まるコホモロジー作用素 $\Psi^k$ がある。 Adams の予想は KO(X) におけるすべての $\Psi^k$ の情報が $Ker\ J$ を決定するというものである。ホモトピーに 関する問題では扱うホモトピー集合をコホモロジー作用素を 考慮に入れた(一般)コホモロジー群に表現して研究するのが一般的 であるが、その表現が忠実であるのは稀である。表現が忠実になるのは 問題とコホモロジー理論の相性が特別によい幸福な場合である。そして、 そのような場合には、結果はたいてい非常に美しい。 Adams予想はその典型的な一例である。

参考文献

At61
M. F. Atiyah, Thom complex, Proc. London Math. Soc., (3) 11 (1961), 291-310.

Ad62
F. Adams, Vector fields on spheres, Ann. of Math., 75 (1961), 603-682.

Ad63
F. Adams, On the groups J(X)-I, Topology 2 (1963), 360-384.

Ad65
F. Adams, On the groups J(X)-II, Topology 3 (1965), 137-171.

Ad65
F. Adams, On the groups J(X)-III, topology 3 (1965), 193-222.

Q68
D. Quillen, Some remarks on e tale homotopy theory and a conjecture of Adams, Topology 7 (1968), 111-116.

Q71
D. Quillen, The Adams conjecture, Topology 10 (1971), 67-80.

S74
D, Sullivan, Genetics of homotopy theory and the Adams conjecture, Ann. of Math., 100 (1974), 1-80.

BG75
J. Becker and D. Gottlieb, The transfer map and fiber bundles, Topology, 14 (1975), 1-12.




指数定理への思い入れ  吉田 朋好(東工大・理)

私は「指数定理」を修士のころに勉強してそれ以来何とか背景などを 込めて理解したいと思って努力してきましたが、時間をかけたわりには なかなか思うようにゆきません。最近の物理などとの関連で少しわかり かけた様な気がするのですが、どうでしょうか?

多様体のトポロジーを 指数定理の方から眺めて来たわけですが、そのあたりの毒にも薬にもならない ことをお話しします。



Panel Discussion

Panel Discussion

1950年代 1960年代のトポロジー
現在のトポロジー

1999年6月

1. パネラー(予定者)


		 服部晶夫 		 佐藤肇 
森田茂之 吉田朋好
古田幹雄 小野薫
太田啓史 その他出席者

司会

土屋昭博

2. 内容

それぞれのパネラーの方々に司会者よりまず最初に次の(1)より お聞きし、(2)(3)に移ります。

1.
修士の頃
何を勉強しましたか
修論は何でしたか
その当時何が問題になっていましたか

2.
50年代、60年代のトポロジーで気になっていることについてお話ください。

3.
状況をみながら問題を現在へと発展させます。

3. 各論

1.
Morse理論

Birkov 		 Minmax throry 
Morse 1930年
測地線に関する大域変分学
Morse の不等式
Jacobi 場と指数定理
Bott 1955年
対称空間のパス空間のトポロジー
Bott の periodiety 定理
Milnor-Smale 1960年
高次元 Poincare 予想
多様体のハントル・ボディ分解
h-cobordism 定理
Novikov 1984年
1-form に associate した Morse 理論
Flor Flor cohomology とその影響
Flor cohomology の革新性
1-form に associate した Morse 理論
臨界点の指数 $=\displaystyle\frac{\infty}{2}\pm$有限

2.
特性類
ベクトル束の特性類
Chern 類、Pontryagin 類、Strefel-Whitery 類
構成法
障害の理論
Grassmann 多様体の cell 分割
微分型式による表示
Chern-Weil 理論
Gauss-Bonnet の定理の高次元化
2次の特性類
Chern-Simon 類、$\eta$-不変量
Foliation における Bott の消滅定理
BTop, BPL, BF のコホモロジー
非線型束の特性類
BDiff(M)
曲面束の特性類、森田-Munford 類

3.
交点理論の発展
多様体上の交点理論の登場 Lefshetz
Poincareの双対性
コホモロジー環と交点理論
Lefshetz の不動点定理
多様体上の積分定理
de Rham の定理
調和積分論
不動点定理の展開
楕円複体での不動点定理
共変コホモロジー論
有限標数でのコホモロジー論の展開
etal cohomology Grothendieck
Weil 予想の解決 Deligne
etal homotopy 論 Artin-Mazur
Intersection cohomology
Moduli 空間上での交点理論
Donaldson 不変量
Flor cohomology と lagrangean 交点理論
量子コホモロジー環
ミラー対称性

4.
指数定理
古典論
代数曲線上での Riemann-Roch の定理
Gauss-Bonnet の定理
ベクトル場に関する Hopf の定理
Hirzebruch の Riemann-Roch の定理
位相的 K-理論と Grothendieck の Riemann-Roch の定理
Atiyah-Singer の指数定理
Atiyah-Singer の指数定理の現在への影響 ?

5.
代数的位相幾何学とホモトピー
コホモロジー作用素
cup-i 積
Eilenberg-Maclane 空間 $K(\pi,n)$
Steenrod 代数
$K(\pi,n)$ の cohomology Serre
Steenrod 代数の構造定理 Milnor
代数的位相幾何学における局所化原理
Serre の C 理論
Morava による複素コボルディズム論の局所化
Morava K-theory
Geometric localization theorem
M.J.Hopkins 1980年代後半
球面のホモトピー
$\Pi_n(S^k)$ の有限性
Adams のスペクトル列
Toda の Composition method
Unitary Cobordism における Novikov のスペクトル列
Nishida の巾零性定理
Periodicity Phenomena
ホモトピー論における主要問題
球面上のベクトル場 解決
Hopf-invariant 問題 解決
Kervar invariant 問題 未解決
J-準同型写像に関する Adams 予想 解決

6.
微分位相幾何学
コボルディズム
Pontyagin 構成
コボルディズムと Thom 空間
ホモトピー論への転化
Milnor の 7-球面
高次元 Poincare 予想
h-cobordism
ハンドル体定理
ホモトピー球面の群
surgery
Triangulating homotopy 同値
F/PL のホモトピー型の決定


私説 トポロジーの生成と消滅、そして再生

私説 トポロジーの生成と消滅、そして再生

名古屋大学多元数理 土屋昭博

1999年6月

1. 1920年代、1930年代 -- 誕生

1.
ホモロジーとホモトピー
3角形近似  $\Pi_k(S^n)=0\quad k<n$
Browderの写像度  $\Pi_k(S^n)\cong Z$
Hopfの写像  $S^{2n-1}\longrightarrow S^n,\enskip
\Pi_{2n-1}(S^n)\supseteq Z$
Hurwitzの同型定理  $\Pi_n(X) \stackrel{\sim}
{\longrightarrow} H_n(X)$ if $\Pi_k(X)=0\quad k<n$

2.
多様体上の交点理論 Lefshetz
Lefshetzの不動点定理

3.
微分形式とコホモロジー
de Rhamの定理

4.
Morse理論の誕生

2. 1940年代 -- 幼年期

1.
ホモトピーとホモロジー
原始的コホモロジー作用素(cup-i積)発見
Steenrod ; Pontryagin
$\Pi_{n+1}(S^n),\enskip\Pi_{n+2}(S^n)$ の計算
$K(\Pi,n)$ の発見:Eilenberg-Maclane
Postrnikov係列

2.
Fiber束と特性類
Chern類、Pontryagin類、Stiefel-Whitrey類
障害の理論
微分型式と特性類 Chern-Weil理論
分類空間としてのGrassman多様体

3.
微分位相幾何学の萌芽
ポントリヤーギン構成 in $\Pi_n(S^k)$, framed cobordism

3. 1950年代 -- 青年期

1.
ホモトピーとホモロジー
$K(\Pi,n)$ のコホモロジー、Steenrod代数の決定 (Serre)
SerreのC理論
$\Pi_n^S(S^0)=\lim_{k\to\infty}\Pi_{n+k}
(S^k)\quad n>0\enskip$:有限アーベル群であること
Toda bracket
Adamsのスペクトル列 $\Longrightarrow$ $\Pi_*^S(S^0)$
無限ループ空間とホモロジー作用素 工藤, 荒木, Dyer-Lashof
Steenrod代数の構造定理(Milnor)
複素コボルディズム群の決定(Milnor, Novikov)

2.
微分位相幾何学の誕生
Cobordism 群と Thom 空間(Thom)
7次元ホモトピー球面(Milnor)
高次元ポアンカレ予想(Smale)
by Morse theory
h-cobordism理論、ハンドル体理論

3.
Riemann-Roch理論と位相的K-理論
Hirzebruch-Atiyah, Grothendiek

4.
Bottの周期性理論と位相的K-理論
Bott(Morse理論)

5.
幾何学的表現論
Borel-Weil理論
等質空間上の等質ベクトル束(Bott)

4. 1960年代 1970年代初め -- 熟年期

1.
ホモトピーとホモロジー
ホモトピー論における主要問題
Hopf-invaiant 1 問題の解決 , Adams
球面上の Vector 場の存在個数の解決 , Adams
Kervaire-invariant 問題 未解決
Adams スペクトル列における hj2 の permanent cycles 問題との
等価性 W:Browder
J-順同型に関する Adams 予想 解決
$\Pi_*^S(S^0)$ における $\beta_1^{(1)}$ の非存在 戸田
$\Pi_*^S(S^0)$ の積の巾零性 西田

2.
ホモトピーと微分位相幾何学
ホモトピー球面の群と $\Pi_*^S(S^0)$ の関係 Kerveire-Milnor
framed-cobordism と surgery
Kervaire invaiant 問題の登場

3.
ホモトピーと代数幾何
エタール - ホモトピー型 Artin-Mazur
Adams 予想の解決 Quillen

4.
Atiyah-Singer の指数定理
証明方法
Cobordism 不変性 Atiyah-Singer
K-theory と切除定理 Atiyah - Bott
熱方程式 Patodi
Super-Symmetry と局所表示
Lefshetz の不動点定理 Atiyah-Bott

5.
複素コボルディズム理論
複素コボルディズム理論におけるコホモロジー作用素の決定
Novikov-Landweber
Novikov のスペクタル列
複素コボルディズム理論の局所化 Brower-Peterson スペクトラム
複素コボルディズム理論における1次元 formal 群の普遍性  Qullen
複素コボルディズム理論と K-理論
Morava の K-theory

6.
微分位相幾何学とホモトピー
Trianglating homotopy equivalence  D-Sullivan
F/PL のホモトピー型の決定
H*(BPL), H*(BTop), H*(BSF) の決定

7.
2次特性類の登場
Chern-Simon 不変量 , $\eta$ 不変量
Foliation におけるポントリヤーギン類の消滅定理 Bott

5. 現在 ?



Last Modified : Mar 12, 1913 : 22:23