Painleve 方程式の数理 : 岡本 和夫(東大・数理)
私は随分長い間,Painleve 方程式を研究対象としてきました。
Painleve 方程式というのは,19 世紀の終わり頃,微分方程式で定義される新
しい特殊関数を探す,という問題意識のもとで,Painleve が発見した 6 つの
2 階非線形常微分方程式です。
この問題意識は現在でも特別変わったものとは思っていませんが,古くさいと見
られていたようで,しばらく放って置かれました。
私に求められている話は,Painleve 方程式の概略であろうと想像できますの
で,具体的な新しい話は他の講演者にお任せし,今考えている問題意識のようなものを
併せて紹介しようと思っています。
なお,最近「Painleve 方程式の数理」という題で話をする機会が多いのです
が,内容は必ずしも同じではありません。
今回は,Painleve 方程式の拡張について考えてみたいと思っています。
Painleve 方程式は特殊関数を定義するか : 梅村 浩(名大・多元数理)
Painleve 方程式に関する最も深刻な問は表題にした問である. すなわち,
問題. Painleve 方程式は本当に特殊関数を定義するのか.
Painleve 方程式は 100 年程前に発見された.
発見の原動力となったのは新しい特殊関数の追求である.
19 世紀の数学者には次のような問題意識があった.
すなわち, 当時よく知られていた特殊関数である超幾何関数およびその合流,
楕円関数を一般化することによって, 新しい豊かな数学の世界が開けて来るの
ではないか.
一般化を考える上でモデルとなったのは Weierstrass の
関数であった.
Painleve は動く特異点を持たない 2 階の代数微分方程式
を分類した. ここで,
は
の
-係数
有理式である. その後, これらの代数微分方程式の表から知られた関数で
積分できるものを消去した. その結果残ったのが、
6 つの Painleve 方程式である. ここから自然に, 上に述べた疑問が
生じるのである.
これまでに挙がった Painleve 方程式研究の成果は次のようである.
- (i)
- Painleve 方程式はモノドロミー保存変形を記述する. この形で
Painleve 方程式は数理物理学に出現した(R. Fuchs, Garnier, 佐藤学派).
- (ii)
- Backlund 変換および Hamilton 構造の発見(岡本 和
夫).
- (iii)
関数の理論(佐藤学派, 岡本).
- (iv)
- 初期値空間の幾何学的研究(岡本).
- (v)
- Painleve 方程式の還元不能性の証明.
Painleve 方程式の古典解の決定(西岡, 岡本, 野海, 村田, 渡辺等) .
- (vi)
- Painleve 方程式が生成する特殊多項式の研究(Yablonskii, 岡
本, 野海, 岡田、種子田)
これらの成果ははたして Painleve 方程式が特殊関数を定義することを
意味するのであろうか.
有理曲面とPainleve 方程式の幾何 :
坂井 秀隆(東大・数理)
曲面を与えるということは、何枚かの座標系を用意しておいて
それらを張り合わせるということである。もう少し詳しく言うと、
座標を張り合わせるという言うことは、それらの間の座標変換を与えることであ
る。
簡単な曲面を作って張り合わせの変換で遊んでいると、
自然に曲面の対称性が見えて来る。
これらの変換は幾何学的によく分かる形で定式化できる。
Picard 群という格子の自己同型群で、行列でかける。
本当に簡単な場合にはこの対称性は有限群でかけてしまう。
もう少し頑張って、例えば射影平面の 9 点 blow-up 等を考えると
無限群が出て来る。この場合この対称性には
が部分群として含まれていて、
その作用を順々に見ていくことで、
離散的な時間発展つまり差分方程式と思うことができる。
曲面を退化させることで、このそれぞれのステップを
無限小に持っていくと微分方程式がでてきた。
Painleve 方程式だ。
Painleve 方程式の対称性 :
山田 泰彦(神戸大・自然科学)
本講演では, この数年間の野海正俊氏(神戸大)との共同研究の内容について
述べたいと思います. 対称性を基本にしてPainleve 方程式を眺める, とい
うのが研究の主題です.
Painleve 方程式のような微分方程式に対して, その対称性とは解空間の対称
性のことと考えてください. あるいは, 解を解にうつす変換群の研究と言っても
よいでしょう. 我々はこのような変換を Bäcklund 変換と呼びます.
例として取り上げますのは, Painleve 方程式のうちの第4番 PIVで,
我々はこれを次のように表します,
 |
(1) |
ここで '=d/dx は独立変数 x についての微分,
は
を満たすパラメータ,
fi=fi(x) は
f0+f1+f2=x を満たす未知関数です.
この例では, 添字はいつも
の元と見てください.
この形式における Bäcklund 変換
変換 s0, s1, s2,
は次であたえられます.
 |
(2) |
 |
(3) |
これらの変換は微分方程式を不変に保ち, 次の関係式を満たします,
 |
(4) |
すなわち, A(1)2 型アフィンワイル群(の拡張)を生成します.
このような話は, 記述の仕方は異なりますが, 80年代の岡本さんの研究
などにより知られていたことです.
我々は, このような話の他のルート系への拡張を考えます.