ENCOUNTER with MATHEMATICS ----- 数学との遭遇


第18回 Poincare 予想と3次元トポロジー





2001年2月2日(金) (14:30〜18:00) 〜 2月3日(土) (10:30〜17:20)

於 : 東京都 文京区 春日1--13--27 中央大学 理工学部 5号館5534号室




2月2日(金)
14:30〜16:00 ポアンカレ予想から幾何化予想へ : 小島 定吉氏 (東工大・情報理工)


16:40〜18:00 高次元ポワンカレ予想の解決 : 加藤 十吉氏 (九州大・数理)


2月3日(土)
10:30〜12:30 4次元ポアンカレ予想の解決 : 松本 幸夫氏 (東大・数理)


13:40〜14:40 3次元トポロジ−から三題 I --- 幾何化予想から ?? へ : 小島 定吉氏 (東工大・情報理工)


15:00〜16:00 3次元トポロジ−から三題 II --- 3次元多様体の量子不変量 : 大槻 知忠氏 (東工大・情報理工)


16:20〜17:20 3次元トポロジ−から三題 III --- 2次元から見た量子不変量 : 吉田 朋好氏 (東工大・理)


17:30〜 懇親会(ワイン・パーティー)





別紙の趣旨に沿った集会の第18回を以上のような予定で開催いたします。 非専門家向けに入門的な講演をお願い致しました。 多く方々の御参加をお待ちしております。 講演者による講演内容へのご案内を添付いたしますので御覧下さい。

連絡先 : 112-8551 東京都文京区春日 1-13-27 中央大学 理工学部 数学教室 tel : 03-3817-1745
ENCOUNTER with MATHEMATICS : e-mail : encmath@math.chuo-u.ac.jp
homepage : http://www.math.chuo-u.ac.jp/ENCwMATH
三松 佳彦 : yoshi@math.chuo-u.ac.jp / 高倉 樹 : takakura@math.chuo-u.ac.jp




Poincare 予想と3次元トポロジー


概要





ポアンカレ予想から幾何化予想へ : 小島 定吉(東工大・情報理工)

ポアンカレ予想とは, 約100年前に多様体のトポロジ−の研究の基礎を確立した ポアンカレの一連の大論文の中に記された 「単連結3次元閉多様体は3次元球面と位相同型か?」 という問題を指す. いまだ未解決であるが, 20世紀の数学研究推進の大きな原動力となった予想で, その重要性は衆目の一致するところである.

今回の ENCOUNTER with MATHEMATICS は, ポアンカレ予想をめぐるこれまでの研究の進展と, 3次元という今注目が集まっている次元での トポロジ−の現況をテ−マに取り上げている. この講演は表題のとおり, そもそものポアンカレ予想を出発点として, 3次元多様体論の進展を時代を追って解説し, 全体の序章としたい.

参考文献
[1] 加藤十吉,「ポアンカレ予想周辺」,数学,岩波書店,31 (1979)
[2] 小島定吉,「ポアンカレ予想」,数学セミナ−,4月号 (1998)
[3] 松本幸夫,「4次元ポアンカレ予想の解決」,数学セミナ−,6月号
 (1982)
[4] J. Milnor, The Poincare Conjecture,
http://www.claymath.org/prize_problems/index.htm



高次元ポワンカレ予想の解決 : 加藤 十吉(九州大学・数理学研究院)

ポワンカレ予想の高次元版
  「n(≧5)次元のホモトピー球面はn次元球面に同相である」
が S. Smale によって解決されたのは周知の事実だろう. しかし,文献的には,J. Stallings の証明の方が早く出版されている. そこには高次元ポワンカレ予想の解決を巡る 組合せ位相幾何学対微分位相幾何学 の凄まじい先陣争いが伺える. Smale は英国の一匹狼 J. H. C. Whitehead の「collapsing と正則近傍の理論」 と米国の M. Morse の理論 および H. Whiteney の「可微分埋蔵の交叉理論」 の融合により,高次元ポワンカレ予想に到達したと言われる. Smale の理論はそれだけの解決にとどまることなく,一般の高次元 多様体の分類理論の基盤となる h-同境定理に到達する.

今回の ENCOUNTER with MATHEMATICS では,Smale 以前の Whitehead の 高次元ポワンカレ予想への取り組みを中心に,組合せ位相幾何的な,したがっ て,ユークリッドの原本の第13巻としての高次元ポワンカレ予想の解決に 触れて,Stallins の組合せ位相幾何学的証明への執着と情熱を理解する一助 として戴ければ幸です.



4次元ポアンカレ予想の解決 : 松本 幸夫(東大・数理)

1904年にポアンカレによって3次元ポアンカレ予想が問題と されて以来、約60年後にスメールにより高次元の類似(高次元 ポアンカレ予想)が解決された。これは、「ある意味では高次元 のほうが見やすい」という驚くべき事実の発見だった.スメール の方法は高次元に特有の技法、とくに「ホイットニー・トリック」 を使うため、すぐに4次元に適用するわけには行かなかったが、 1973年のキャッソンの素晴らしいアイデアによって、4次元に 適用する道が開かれた.そして遂に1981年になり、フリードマンに よる4次元ポアンカレ予想の解決をみた。

この講演では、キャッソンのアイデアとフリードマンの仕事につい ての解説を試みたいと思います。


参考文献:

上正明・久我健一, 「Freedmanによる4次元Poincare予想の 解決について」,数学 35(1983)



3次元トポロジ−から三題

I.  幾何化予想から ?? へ : 小島 定吉(東工大・情報理工)

幾何化予想は, ポアンカレ予想をいっきに3次元多様体のトポロジーの 分類に引き上げる新しい視点をもたらした. こうした幾何的な立場からの研究は, 基本群が無限群である場合に著しく進展し, 近い将来の解決も夢ではないと期待されている. しかし基本群が有限群の場合は どうも相性が今一つという感が否めない.

一方こうした幾何化の流れとは独立に, 80年代半ばから新しい代数的手法による 3次元多様体の位相不変量の研究が 数理物理の興味と結びつき大きく展開した. それぞれの研究は長い間(超)平行線を歩んだが, 最近になって, 体積予想など両者を結びつける橋が現われ始めてきた. この講演では, これからどこへ向かうのか見当もつかない3次元トポロジーを, こうした橋を意識しつつ (すでに古典かもしれない) 幾何化の 視点から今一度振り返ってみたい.



II.  3次元多様体の量子不変量 : 大槻 知忠(東工大・情報理工)

1980年代の数理物理と低次元トポロジーの交流により, 3次元トポロジーには,量子不変量とよばれる多数の位相不変量がもたらされた. 数理物理的には,Chern-Simons 汎関数を Lagrangian とする経路積分として 量子不変量は表される. この Chern-Simons 経路積分を数学的に理解する1つの方法が摂動展開であり, この摂動展開を数学的に定式化することにより 3価グラフの無限線形和が(3次元多様体の位相不変量として)えられる. とくにホモロジー球面に話を限ると, この無限線形和の各係数は整数性をもつ有限型不変量になり, さらに各有限型不変量は任意の整数値をとる. また,すべての有限型不変量が同じであるような 同相でないホモロジー球面は現時点では知られていない. 希望的には,ホモロジー球面の集合は 3価グラフがはる(無限 rank の) lattice の部分集合とみなされる (ことが期待される). 量子不変量はこの lattice 上の関数である.

最近の話題である体積予想によると,量子不変量のある種の極限として (数理物理的にはある種の相関関数の準古典極限として) 「双曲体積」と「Chern-Simons 不変量」が現われる(らしい)ことが 数値実験等により強く示唆されている. 今後,幾何構造と位相不変量の研究が結びつくことにより, 3次元多様体のトポロジーの解明にむけて, 体積予想から何がもたらされるのか? 今後の進展が期待される.

この講演では,Chern-Simons 経路積分から体積予想まで, 数理物理に由来する不変量をめぐる3次元トポロジーの (この十数年の)発展を概観する.



III.  2次元から見た量子不変量 : 吉田 朋好(東工大・理)

3次元量子不変量を2次元共形場理論から見たときの風景について 話す。

Last Modified : Mar 19, 2001 : 19:51