ポアンカレ予想から幾何化予想へ : 小島 定吉(東工大・情報理工)
ポアンカレ予想とは,
約100年前に多様体のトポロジ−の研究の基礎を確立した
ポアンカレの一連の大論文の中に記された
「単連結3次元閉多様体は3次元球面と位相同型か?」
という問題を指す.
いまだ未解決であるが,
20世紀の数学研究推進の大きな原動力となった予想で,
その重要性は衆目の一致するところである.
今回の ENCOUNTER with MATHEMATICS は,
ポアンカレ予想をめぐるこれまでの研究の進展と,
3次元という今注目が集まっている次元での
トポロジ−の現況をテ−マに取り上げている.
この講演は表題のとおり,
そもそものポアンカレ予想を出発点として,
3次元多様体論の進展を時代を追って解説し,
全体の序章としたい.
参考文献
[1] 加藤十吉,「ポアンカレ予想周辺」,数学,岩波書店,31 (1979)
[2] 小島定吉,「ポアンカレ予想」,数学セミナ−,4月号 (1998)
[3] 松本幸夫,「4次元ポアンカレ予想の解決」,数学セミナ−,6月号
(1982)
[4] J. Milnor, The Poincare Conjecture,
http://www.claymath.org/prize_problems/index.htm
高次元ポワンカレ予想の解決 : 加藤 十吉(九州大学・数理学研究院)
ポワンカレ予想の高次元版
「n(≧5)次元のホモトピー球面はn次元球面に同相である」
が S. Smale によって解決されたのは周知の事実だろう.
しかし,文献的には,J. Stallings の証明の方が早く出版されている.
そこには高次元ポワンカレ予想の解決を巡る
組合せ位相幾何学対微分位相幾何学
の凄まじい先陣争いが伺える.
Smale は英国の一匹狼 J. H. C. Whitehead の「collapsing と正則近傍の理論」
と米国の M. Morse の理論 および H. Whiteney の「可微分埋蔵の交叉理論」
の融合により,高次元ポワンカレ予想に到達したと言われる.
Smale の理論はそれだけの解決にとどまることなく,一般の高次元
多様体の分類理論の基盤となる h-同境定理に到達する.
今回の ENCOUNTER with MATHEMATICS では,Smale 以前の
Whitehead の
高次元ポワンカレ予想への取り組みを中心に,組合せ位相幾何的な,したがっ
て,ユークリッドの原本の第13巻としての高次元ポワンカレ予想の解決に
触れて,Stallins の組合せ位相幾何学的証明への執着と情熱を理解する一助
として戴ければ幸です.
4次元ポアンカレ予想の解決 : 松本 幸夫(東大・数理)
1904年にポアンカレによって3次元ポアンカレ予想が問題と
されて以来、約60年後にスメールにより高次元の類似(高次元
ポアンカレ予想)が解決された。これは、「ある意味では高次元
のほうが見やすい」という驚くべき事実の発見だった.スメール
の方法は高次元に特有の技法、とくに「ホイットニー・トリック」
を使うため、すぐに4次元に適用するわけには行かなかったが、
1973年のキャッソンの素晴らしいアイデアによって、4次元に
適用する道が開かれた.そして遂に1981年になり、フリードマンに
よる4次元ポアンカレ予想の解決をみた。
この講演では、キャッソンのアイデアとフリードマンの仕事につい
ての解説を試みたいと思います。
参考文献:
上正明・久我健一, 「Freedmanによる4次元Poincare予想の
解決について」,数学 35(1983)
3次元トポロジ−から三題
I. 幾何化予想から ?? へ : 小島 定吉(東工大・情報理工)
幾何化予想は,
ポアンカレ予想をいっきに3次元多様体のトポロジーの
分類に引き上げる新しい視点をもたらした.
こうした幾何的な立場からの研究は,
基本群が無限群である場合に著しく進展し,
近い将来の解決も夢ではないと期待されている.
しかし基本群が有限群の場合は
どうも相性が今一つという感が否めない.
一方こうした幾何化の流れとは独立に,
80年代半ばから新しい代数的手法による
3次元多様体の位相不変量の研究が
数理物理の興味と結びつき大きく展開した.
それぞれの研究は長い間(超)平行線を歩んだが,
最近になって,
体積予想など両者を結びつける橋が現われ始めてきた.
この講演では,
これからどこへ向かうのか見当もつかない3次元トポロジーを,
こうした橋を意識しつつ (すでに古典かもしれない) 幾何化の
視点から今一度振り返ってみたい.
II. 3次元多様体の量子不変量 : 大槻 知忠(東工大・情報理工)
1980年代の数理物理と低次元トポロジーの交流により,
3次元トポロジーには,量子不変量とよばれる多数の位相不変量がもたらされた.
数理物理的には,Chern-Simons 汎関数を Lagrangian とする経路積分として
量子不変量は表される.
この Chern-Simons 経路積分を数学的に理解する1つの方法が摂動展開であり,
この摂動展開を数学的に定式化することにより
3価グラフの無限線形和が(3次元多様体の位相不変量として)えられる.
とくにホモロジー球面に話を限ると,
この無限線形和の各係数は整数性をもつ有限型不変量になり,
さらに各有限型不変量は任意の整数値をとる.
また,すべての有限型不変量が同じであるような
同相でないホモロジー球面は現時点では知られていない.
希望的には,ホモロジー球面の集合は
3価グラフがはる(無限 rank の) lattice の部分集合とみなされる
(ことが期待される).
量子不変量はこの lattice 上の関数である.
最近の話題である体積予想によると,量子不変量のある種の極限として
(数理物理的にはある種の相関関数の準古典極限として)
「双曲体積」と「Chern-Simons 不変量」が現われる(らしい)ことが
数値実験等により強く示唆されている.
今後,幾何構造と位相不変量の研究が結びつくことにより,
3次元多様体のトポロジーの解明にむけて,
体積予想から何がもたらされるのか? 今後の進展が期待される.
この講演では,Chern-Simons 経路積分から体積予想まで,
数理物理に由来する不変量をめぐる3次元トポロジーの
(この十数年の)発展を概観する.
III. 2次元から見た量子不変量 : 吉田 朋好(東工大・理)
3次元量子不変量を2次元共形場理論から見たときの風景について
話す。