ENCOUNTER with MATHEMATICS ----- 数学との遭遇


第19回 Invitation to Diophantine Geometry





2001年 4月27日(金) (14:30〜17:40) 〜 4月28日(土) (10:30〜17:00)

於 : 東京都 文京区 春日1--13--27 中央大学 理工学部 5号館5534号室




4月27日(金)
14:30〜15:30 ディオファントス問題入門 I:平田 典子氏 (日大・理工)


16:10〜17:40 連分数展開と力学系の線型化問題:宍倉 光広氏 (京大・理)


4月28日(土)
10:30〜12:00 ディオファントス問題入門 II:平田 典子 (日大・理工)


14:00〜15:30 ネヴァンリンナ理論とディオファンタス幾何学:小林 亮一 (名古屋大・多元数理)


15:50〜16:50 ディオファントス問題入門 III:平田 典子 (日大・理工)


17:00〜 懇親会(ワイン・パーティー)





別紙の趣旨に沿った集会の第19回を以上のような予定で開催いたします。 非専門家向けに入門的な講演をお願い致しました。 多く方々の御参加をお待ちしております。 講演者による講演内容へのご案内を添付いたしますので御覧下さい。

連絡先 : 112-8551 東京都文京区春日 1-13-27 中央大学 理工学部 数学教室 tel : 03-3817-1745
ENCOUNTER with MATHEMATICS : e-mail : encmath@math.chuo-u.ac.jp
homepage : http://www.math.chuo-u.ac.jp/ENCwMATH
三松 佳彦 : yoshi@math.chuo-u.ac.jp / 高倉 樹 : takakura@math.chuo-u.ac.jp




Invitation to Diophantine Geometry


概要





ディオファントス問題入門 : 平田 典子 (Noriko HIRATA-KOHNO : 日大・理工)

ディオファントス問題とは、フェルマーの大定理に代表される 整数係数多変数多項式の整数解を求める問題や、 その様々な拡大解釈を含むものの総称であるといえる。

1908 年の A. Thue の結果を K. F. Roth が 1955 年に 最良に直してフィールズ賞を得たものは、 1970 年代から 1989 年にかけて W. M. Schmidt により部分空間定理として一般化された。

現在も発展を続けているこの部分空間定理は 一つの近似不等式で、ディオファントス問題に対する一解法である。

G. Faltings らによる高次元モーデル予想などの 数論的代数幾何学の諸問題への応用によっても、 この解法の重要さは多方面に認められている。

ディオファントス問題に役立つこのような近似不等式を、 ディオファントス近似と呼ぶ。

Faltings 、そして近年の J, -H, Evertse 、G. Remond らの問題意識は、 いわば不定方程式の整数解を調べる問題の近代的翻訳とも言えるが、 ここでは入門としてディオファントス近似が不定方程式で どういう働きをするのか、そして整数解の有限性について どういう結果を導くのかを述べてみたい。

まず、ディオファントス近似の最初の一歩として、 Thue-Siegel-Roth の定理と呼ばれる20世紀半ば迄の近似不等式の学習から始めよう。 そして、それが代数体の2変数 Unit Equation の解の有 限性を従えるという C. L. Siegel の議論とその多変数版を述べ、 Evertse 、H, -P, Schlickewei 、Schmidt らによる 最近の仕事にも言及する。

部分空間定理を数論的代数幾何に使いやすい形にした Evertse、R. Ferretti らの一般化や、ア−ベル多様体の整数点の個数数え上げなどの話題にもできるだけ触れる。

参考文献
[E1] Evertse, J.-H., An explicit version of Faltings' Product Theorem and an improvement of Roth's lemma. Acta Arith. 73 (1995), 215-248
[E2] -- An improvement of the quantitative Subspace theorem. Compos. Math. 101 (1996), 225-311
[Schm1] W. M. Schmidt, Diophantine Approximations, Lecture Notes in Math. 785 (1980), Springer-Verlag.
[Schm2] -- The subspace theorem in diophantine approximations. Compos. Math. 69 (1989), 121-173



連分数展開と力学系の線型化問題(Siegel-Brjuno-Yoccozの定理): 宍倉 光広氏 (京大・理)

力学系が与えられたとき,その軌道の様子などを調べるために,わかりやすい標準形 (例えば線型力学系)に帰着するいうのは,最も古くから使われているアプローチで ある。ただし,このような標準化はいつでも可能なわけではなく,それに関連した数 多くの問題は力学系の研究の重要なテーマとなっている。ここで扱うのは,その中で も最も単純な問題である。

\begin{displaymath}f(z)=\lambda z + a_2 z^2 + \dots
\end{displaymath}

z=0 のまわりで定義された正則関数とするとき,z=0 は不動点で (f(0)=0),そこでの微分は $\lambda = f'(0)$ である。 $\lambda \neq 0$ のと き,力学系 $z \mapsto f(z)$ の自然な標準化は,線型写像 $z \mapsto \lambda z$ への共役で ある。すなわち,この場合の標準化問題は, z=0 のまわりの正則関数 $h(z)=b_1 z + b_2 z^2 + \dots$ で,

\begin{displaymath}h \circ f \circ h^{-1}(z) = \lambda z
\end{displaymath}

をみたすものが存在するかどうかである。このような h(z) が存在するとき, f(z) は線型化可能であるという。 $0<\vert\lambda\vert<1$ または $\vert\lambda\vert>1$ のと き,f(z) はいつでも線型化可能である。一番微妙な問題が起きるのは, $\lambda
= e^{2 \pi i \alpha}$ で,$\alpha$ が無理数となるときである。この場合の線型 化問題では,形式的べき級数としては線型化写像 h(z) はいつでも存在するが,収 束するとは限らず,$\alpha$ がどれくらい「良く」有理数で近似(ディオファンタ ス近似)できるかが密接に絡んでくる。それを最終的に必要十分条件という形で解決 したのが,Yoccozである。

定理 [Siegel-Brjuno-Yoccoz] $\alpha$ を無理数とし,pn/qn $(n=1,2, \dots)$ をその連分数展開から定義さ れる近似分数とする。Brjuno和

\begin{displaymath}\sum_{n=1}^\infty \frac {\log q_{n+1}}{q_n}
\end{displaymath}

が収束するとき,かつそのときに限り,微分が $e^{2 \pi i \alpha}$ となるすべて の正則関数

\begin{displaymath}f(z)=e^{2 \pi i \alpha} z + a_2 z^2 + \dots
\end{displaymath}

は線型化可能である。さらに,Brjuno和が発散するとき,2次多項式 $e^{2 \pi i \alpha} z + z^2 $ は線型化可能ではない。

この定理の証明には,力学系の「幾何学的くりこみ」とでも言うべきアイデアが使わ れた。それは,見方を変えれば,力学系の空間での「連分数展開」ともいえる。この 講演では,このアイデアについて,解説する予定である。



ネヴァンリンナ理論とディオファンタス幾何学 : 小林 亮一 (名古屋大・多元数理)

ネヴァンリンナ理論とはどのような数学だろうか. 古典ネヴァンリンナ理論がアラケロフ幾何学 のモデルとして注目されて以来, ネヴァンリンナ理論は, 数論と複素幾何学の 2 つの顔を備え た, 独特の趣きを持つ数学として, 一部の研究者が好んで研究する分野になった.

正則曲線 $f:{\bf C} \to X$ を単に像 $f({\bf C})$ として考えるのではなく ${\bf C}$ からの写像と考えることが, 数論における素構造 (prime structure) の類似である. この立場でネヴァンリンナによって導入された 3 種類の基本関数 (個数関数, 接近関数および 特性関数) を見直すと, 正則曲線 $f:{\bf C} \to X$ と因子 D の交点への``有限素点", ``無限素点", および ``すべての素点" と解釈できるものの寄与を表していることがわかる.

ネヴァンリンナの第1主要定理は, 特性関数を使えば, 完備な交点理論が定義できる (特性関数 は因子を線形同値類で動かしても不変) ことを主張する.

一方, ネヴァンリンナ理論の第2主要定理 (予想) は, 交点数として接近関数のみを使った 場合, 交点理論が 完備からどのくらいずれるのかを X の幾何学的不変量によって統制する不等式で, これこそ ネヴァンリンナ理論の真髄である. 第2主要定理(予想) と Roth の定理 (たとえば [HS] 参照) および Schmidt 部分 空間定理 (たとえば [L] を参照), それらを一般化して Vojta が予想しているディオファンタス 近似不等式 ([V] 参照) との驚くべき類似性は, ネヴァンリンナ理論とディオファンタス幾何学 を統一的に説明するような幾何学が存在していることを強く示唆する.

では, そのように現代的視点によって活気づいたネヴァンリンナ理論が有効に働く問題とは何だ ろうか. それに答えるために射影代数多様体 X が与えられたとする. 想像をたくましく して, X に関連するいろいろな代数多様体に ${\bf C}$ からの正則曲線を入射し, その振る舞 いを解析することによって X におけるある種のサイクルの存在, 非存在の問題に貢献したい な, と思うことが, ネヴァンリンナ理論の代数幾何学への応用研究を動機づける. 射影代数多様体 の中で, 正則曲線が周囲よりも高い密度で溜まる部分多様体を検出したい, という問題はその一部 である. 微分幾何的に言えば, 曲率の概念を素構造を通して見るとどのように見えるか, という問 題である. たとえば [L], [KS] を参照.

このようにネヴァンリンナ理論の範囲にとどまる問題の他に, もっと大きな構想として, Vojta, Lang が提唱している ([L], [V] 参照) ように, ディオファンタス幾何学への寄与を期待 しながら, ディオファンタス近似の諸問題の ``解ける" 幾何学モデルを構築する, という大きな 問題がある. 本講演ではそのような試みを一部紹介する (たとえば [Y] における試み).

ネヴァンリンナ理論をディオファンタス近似と比較して類似点と相違点, そして相違点を超えて なおも存在する強力な類似点について, ネヴァンリンナ理論における第2主要予想への道の模索 の試みを通して概観することを, 本講演の目標とする ([KR] を参照).

文献

[A] Ahlfors, L.V., The theory of meromorphic curves, Acta Soc. Sci. Finn. N.S. A. III (1941), 1-31.
[C] Cartan, H., Sur les zeros des combinaisons lineaires des p fonctions holomorphes donnes, mathematica 7 (1933), 5-31.
[HS] Hindry, M., Silverman, J., Diophantine Geometry. An Introduction. Springer. 2000
[KR] Kobayashi, R., Nevanlinna 理論のおける積分幾何的方法と対数微分の補題.
[KS] Kobayashi, S., Complex Hyperbolic Spaces., Springer-Verlag, 1998.
[L] Lang, S., Number Theory III - Diophantine Geometry., EMS 60, Springer-Verlag, 1991.
[M] McQuillan, M., A dynamical counterpart to Faltings' ``Diophantine approximation on Abelian varieties". IHES preprint (1996).
[V] Vojta, P., Diophantine Approximation and Value Distribution Theory, LNM 1239, Springer-Verlag.
[Y] Yamanoi. K., Algebro-geometric version of Nevanlinna's lemma on logarithmic derivative and applications, to appear in Nagoya Math. J.






Last Modified : Jul 16, 2101 : 18:40