ENCOUNTER with MATHEMATICS ----- 数学との遭遇


第21回 実解析への誘い -- 実解析的方法を使いこなそう --





2001年10月26日(金) (14:30〜18:00) 〜 10月27日(土) (10:30〜17:00)

於 : 東京都 文京区 春日1--13--27 中央大学 理工学部 5号館5533号室




10月26日(金)
14:30〜15:50  実解析的方法とはどのようなものか:新井 仁之氏 (東大・数理)


16:30〜18:00  最大関数と Littlewood-Paley 関数:宮地 晶彦氏 (東京女子大・文理)


10月27日(土)
10:30〜12:00  ストリッカーズ評価とその応用:小澤 徹氏 (北大・理)


14:00〜15:30  フラクタル上の解析学 -- 自己相似集合上のラプラシアン --: 木上 淳氏 (京大・情報)


15:50〜17:00  ブラウン運動と実解析 -- 実解析のための確率論入門 --:新井 仁之氏 (東大・数理)


17:20〜 懇親会(ワイン・パーティー)





別紙の趣旨に沿った集会の第19回を以上のような予定で開催いたします。 非専門家向けに入門的な講演をお願い致しました。 多く方々の御参加をお待ちしております。 講演者による講演内容へのご案内を添付いたしますので御覧下さい。

連絡先 : 112-8551 東京都文京区春日 1-13-27 中央大学 理工学部 数学教室 tel : 03-3817-1745
ENCOUNTER with MATHEMATICS : e-mail : encmath@math.chuo-u.ac.jp
homepage : http://www.math.chuo-u.ac.jp/ENCwMATH
三松 佳彦 : yoshi@math.chuo-u.ac.jp / 高倉 樹 : takakura@math.chuo-u.ac.jp




実解析への誘い --実解析的方法を使いこなそう--


概要





実解析的方法とはどのようなものか : 新井 仁之 (東大・数理)

実解析的方法はこれまで,さまざまな分野で使われてきた.最近ではウェーブレット解析,非線形偏微分方程式,距離測度空間上の解析・幾何でも重要な役割を果たしている. また,それにともなって実解析への関心も高まっている.

今回の ENCOUNTER with MATHEMATICS では,実解析学,偏微分方程式,フラクタル解析,調和解析で活躍中の方々による実解析的方法についての入門的な講義が行われる.

この講義ではイントロダクションとして,実解析の予備知識のない方にもわかるように,実解析の基礎を紹介したい.時間の都合上証明の詳細は述べられないが,実解析の思想とアイデアを伝えることができればと思っている.

ところで実解析を使う場合,次の二つのケースがある.

前者は実解析が用意したパッケージを利用することであり,後者は自分でプログラムを作ることに似ている. 実解析が用意したパッケージとしては,すでに多種多様なものあるが,それらは大きく分けると


A.極大作用素

B.特異積分

C.振動積分

D.関数空間


に分類される.また,プログラムを作るときの主たる方法としては


1.被覆補題

2.Calderon-Zygmund 分解

3.Littlewood-Paley分解


がある.A − D も実際にはこれらの方法を組み合わせたり,改良するなどして作られている.

この講義では,特に1,2,3 の方法がどのようなものであるかを解説し, それから得られる重要な定理のいくつかを紹介する.また, 最後にウェーブレットへの応用,ウェーブレットと実解析 との関連についても触れたい.



最大関数と Littlewood-Paley 関数 : 宮地 晶彦(東京女子大・文理) 最大関数や Littlewood-Paley 型関数を用いて、 関数のなめらかさや大きさを測ることについて、 予備知識を仮定せずに、 できるだけ平易に解説します。



ストリッカーズ評価とその応用 : 小澤 徹 (北大・理)

波動函数の滑らかさと可積分性を時空大域的に与える一連の評価をストリッカー ズ評価と謂う.時間と空間の可積分性が一致する場合のストリッカーズ評価は対 応する偏微分作用素の特性多様体上に制限された時空フーリエ変換のLp有界性 と同値である為,例えばボッホナー・リース予想,掛谷予想との密接な関係を持っ ている.ストリッカーズ評価は非線型シュレディンガー方程式や非線型クライン・ ゴルドン方程式を首めとする非線型波動方程式の函数空間論的扱いには不可欠な 道具の一つである.本講演ではストリッカーズ評価の証明の構造,実解析的意義, 簡単な応用例を述べる.


参考文献

1.
M.Keel and T.Tao,Endpoint Strichartz estimates, Amer. J. Math. 120 (1998) 955-980.
2.
R.Strichartz, Restriction of Fourier transforms to quadratic surfaces and decay of solutions of wave equations, Duke Math. J. 44 (1977) 705-714.
3.
T.Tao, The Bochner-Riesz conjecture implies the restriction conjecture, Duke Maht.J. 96 (1999) 363-376.
4.
堤誉志雄,非線形方程式の解の大域存在と爆発,数学 53 (2001) 139 -156.




フラクタル上の解析学 -- 自己相似集合上のラプラシアン -- : 木上 淳 (京都大学大学院情報学研究科)

自己相似集合のようないわゆるフラクタル集合の上では一般に「微分」という概念を定義することは困難である。しかしながら フラクタルは元来自然界の物のより精密なモデルとして導入されたのである。従って自然界における拡散や波動の物理現象を記述するためには、フラクタル上での「微分方程式」を考える必要がある。本講演ではSierpinski gasket に代表される(有限分岐的な)自己相似集合上に ``Laplacian'' を定義し、その固有値の分布および対応する熱核の漸近挙動について述べる。

講演の目次
1. フラクタルとは何か?
2. 自己相似集合
3. 自己相似集合上の(自己相似的)Dirichlet form
4. 自己相似集合上のラプラシアン
5. ラプラシアンの固有値分布(Weyl の定理の analogy)
6. 熱核の漸近挙動の multifractal analysis

講演を通じてフラクタル上の解析においては、ユークリッド空間やリーマン多様体などの滑らかな構造をもつ空間と本質的に異なる結果が得られることを述べる。例えば、ユークリッド空間においては Laplacian の固有値の漸近挙動(Weyl の定理) に現れる指数は空間の次元そのものであるが、フラクタルの場合には(見掛け上は)空間の (Hausdorff) 次元とは全く異なる値が現れる。このような困難を解消するためにフラクタル上で距離を取り換えるという操作が必要になる。熱核の漸近挙動においては事情はもっと複雑で、熱核の対角成分の時間 0 への漸近挙動の指数が各点ごとに異なってしまう。このようなフタクラルに特有の現象を、滑らかな空間の場合と対比させて解説したい。



ブラウン運動と実解析 -- 実解析のための確率論入門 -- : 新井 仁之 (東大・数理)

ブラウン運動,マルチンゲール,局所時間など,確率論に関する研究が実解析 に及ぼした影響は大きい.

この講演では,実解析に現れる確率論の諸概念を紹介した後,実解析学の研究に確率論がどうして使えるのか,そのからくりを解説したい. また,実解析と確率論とを関連づける重要な定理の一つに角谷の 定理があるが,それにまつわる未解決問題 - 調和測度の問題 - についても 時間がゆるせば触れる.この問題では,実解析と確率論,そして負曲率多様体上の 解析などが複雑に絡み合っていることがわかってきた.

Last Modified : Jul 26, 2101 : 08:09