ENCOUNTER with MATHEMATICS ----- 数学との遭遇


第24回 双曲幾何





2002年10月18日(金)(14:30〜18:10) 〜 10月19日(土) (10:30〜17:00)

於 : 中央大学 理工学部 : 東京都 文京区 春日1--13--27




10月18日(金)
14:40〜16:10 双曲幾何入門 : 小島 定吉氏 (東工大・情報理工)


16:40〜18:10 双曲幾何と3次元トポロジー : 大鹿 健一氏 (阪大・理)


10月19日(土)
10:30〜12:00 双曲幾何と Klein 群 : 大鹿 健一氏 (阪大・理)


13:40〜15:10 双曲幾何と幾何学的群論 : 藤原 耕二氏 (東北大・理)


15:30〜17:00 数論と双曲幾何 : 藤原 一宏氏 (名古屋大・多元数理)


17:10〜 懇親会(ワイン・パーティー)





別紙の趣旨に沿った集会の第24回を以上のような予定で開催いたします。 非専門家向けに入門的な講演をお願い致しました。 多く方々の御参加をお待ちしております。 講演者による講演内容へのご案内を添付いたしますので御覧下さい。

連絡先 : 112-8551 東京都文京区春日 1-13-27 中央大学 理工学部 数学教室 tel : 03-3817-1745
ENCOUNTER with MATHEMATICS : e-mail : encmath@math.chuo-u.ac.jp
homepage : http://www.math.chuo-u.ac.jp/ENCwMATH
三松 佳彦 : yoshi@math.chuo-u.ac.jp / 高倉 樹 : takakura@math.chuo-u.ac.jp




双曲幾何



概要



双曲幾何入門 : 小島 定吉(東工大・情報理工) 要約 :

Bolyai, Lobachevsky に始まる双曲幾何は, 19世紀後半 Beltrami, Klein, Poincare により 微分幾何学的解釈があたえられ数学の本流に現われ始めた. この講演では, 現代数学の様々なスポットでの深遠な理論展開を語る 三氏の講演の前置きとして, 双曲幾何の基本的な事柄と素朴な感触を多少の歴史も込めて解説したい.

参考文献 :
深谷賢治「双曲幾何」,岩波講座 現代数学への入門 (1996)
W. サーストン(拙監訳)「3次元幾何学とトポロジー」,培風館 (1999)
拙著「多角形の現代幾何学 増補版」,牧野書店 (1999)
拙著「3次元の幾何学」,朝倉書店 講座 数学の考え方 22 近刊
J. Stillwell「Sources of Hyperbolic Geometry」,AMS-LMS, History of Math., 10 (1996)



双曲幾何と3次元トポロジー : 大鹿 健一(阪大・理)

この話では、Thurstonにより導入された双曲幾何の手法が、3次元位相幾何 にもたらした結果を解説する。

3次元コンパクト多様体は素分解およびJaco-Shalen-Johannsonにより、Seifert 多様体と呼ばれる、よく理解された空間と、atoroidalなもの分解される。 このatoroidalなものに双曲構造が入ることを示したのがThurstonの一意化定理 である。

ここではこの定理の意味を述べることを第一の目標とし、さらに重要な応用とし てSmith予想の解決について解説する。



双曲幾何と Klein 群 : 大鹿 健一(阪大・理)

この話では、双曲幾何的手法がKlein群の研究にもたらした成果を解説する。 まずKlein群を双曲多様体の視点から捕らえることにより、幾何的有限性などの 概念が明確に定式化されるのを見る。

また永年懸案であったAhlfors予想のような難問が、双曲幾何をとおして、 位相幾何的問題に翻訳されることを解説する。 さらに双曲幾何的なKlein群研究の発展の様子についても触れたい。



双曲幾何と幾何学的群論 : 藤原 耕二(東北大・理)
双曲幾何との関連を中心に、幾何学的群論について述べる。

I. まず、Dehnの仕事について紹介する。Dehnは前世紀始め、離散群 (有限生成群)の3つの問題を定式化した。すなわち、 1)語の問題、2)共役問題、3)同型問題である。 Dehnはこれらを曲面群の場合に解決し、その過程でquasi-isometry という概念も導入した。

II. 次にGromovの双曲群について述べる。定義と幾つかの例を挙げ、 Dehnの3つの問題について述べる。 時間があれば、離散群のDehn関数、双曲群の外部自己同型群や 3次元多様体の双曲化との関連についても少し述べたい。

III. 最後に、有限表示群のJSJ分解について述べる。これは 3次元 多様体のJaco-Shalen-Johannson分解の導く基本群の分解を、 一般の有限表示群に拡張した理論である。 時間があれば、JSJ理論の最近の応用についても述べたい。

参考文献
I.
[LSc] Lyndon, R.; Schupp, P. Combinatorial group theory. Springer-Verlag, 2001.
II.
[G] Gromov, M. Hyperbolic groups. Essays in group theory, 75-263, Math. Sci. Res. Inst. Publ., 8, Springer, 1987.
[S] Sela, Z. The isomorphism problem for hyperbolic groups. Ann. of Math. (2) 141 (1995), no. 2, 217-283.
[O] 大鹿健一著, 離散群. 岩波書店 , 1998.(岩波講座現代数学の展開).
[F] 藤原耕二、「双曲群の手引き」1995, Surveys in Geometry 無限群と幾何学.
http://www.math.tohoku.ac.jp/ fujiwara/
[St] Stallings, John R. On torsion-free groups with infinitely many ends. Ann. of Math. (2) 88 1968. 312-334.
III.
[RS] Rips, E.; Sela, Z. Cyclic splittings of finitely presented groups and the canonical JSJ decomposition. Ann. of Math. (2) 146 (1997), no. 1, 53-109.
[Se] Serre, Jean-Pierre. Trees. Springer-Verlag, 1980.
[FP] K.Fujiwara, P.Papasoglu, JSJ-decompositions of finitely presented groups and complexes of groups. preprint. http://www.math.tohoku.ac.jp/ fujiwara/
[S] Sela, ICM 2002 Beijing. Proceedings, Algebra session.



数論と双曲幾何 : 藤原 一宏(名古屋大・多元数理)

 双曲幾何学と数論は関係が深い. しかしながら, このことはあまり多くの人々に認 識されていないように見える (一番よく知られているのは rigidity との絡みである が, これについては述べない). この講演では, 双方を結ぶ辞書を説明し, 架け橋を 造りたいと思っている.

テーマとしては

1. 非可換類体論の立場から見て三次元実双曲多様体は興味ある対象であり, 非可換 相互法則を実現する場であること. 特に虚二次体の非可換相互法則と関連している こと.

2. Arithmetic topology との関連. 代数体の整数環や, 有限体上の曲線はホモトピー的に見れば 3 次元であり, 双曲多 様体の類似と思うのが自然である (Mazur に始まる考えであり, 最近の森下昌紀氏の 仕事に続く).

3 次元幾何学における基本的な概念が数論における何に相当するか, Wiles や 肥田 氏などが数論で行っているヘッケ環に関する仕事が Thurston 理論にどう関係するか も述べたい.

双方とも (特に 2 は) まだこれから発展することが期待される考え方であり, 分 野にとらわれない見方をする利点を感じてもらいたい.

参考文献
幾何に関する文献は他の人のものを参照.
藤原一宏
 論説「非可換類体論のめざすもの」「数学のたのしみ」 17 号, 日本評論社
 論説「数学者の現実と夢」「数学のたのしみ」 30 号, 日本評論社
Hida, H., On nearly ordinary Hecke algebras for ${\rm GL}(2)$ over totally real fields, Algebraic number theory, 139-169, Adv. Stud. Pure Math., 17, Academic Press, Boston, MA, 1989.
Morishita, M., Milnor's link invariants attached to certain Galois groups over Q, Proc. Japan Acad. Ser. A Math. Sci. 76 (2000), no. 2, 18-21.




Last Modified : Nov 25, 2002 : 16:30