第38回 幾何学と表現論 ---Kostant-関口対応をめぐって---
2006年12月 8日(金)(14:30〜18:00) 12月9日(土)(10:30〜17:00)
於 : 中央大学 理工学部 : 東京都 文京区 春日 1 - 13 - 27
連絡先 : 112-8551 東京都文京区春日 1-13-27 中央大学 理工学部 数学教室
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ベキ零軌道の魅力
単純リー環にはベキ零元というやっかいな代物が住んでいます。
ベキ零元がなければ,その構造ももう少しあつかいやすものに
なっていたでしょうが,存在するために複雑になりました。
逆に言えば,
そのために構造が豊富になりました。
有理2重点とDynkin図形の関係が注目されるようになり,
それを単純リー環のベキ零元との関係へと深化させたのが
GrothendieckとBrieskornの成果です(cf. [6])。
一方では,Harish-Chandraは不変固有超関数の研究において,
Kostantの構造論を使って,ベキ零多様体に台をもつ
不変固有超関数は存在しないという,
Local integrability theoremの鍵となる結果を導いています
(cf. [3])。
この講演では複素数体上の単純リー環のベキ零元について,
基本的な事柄と上述のことを解説する予定です。
([1]にはベキ零軌道についての基本的な事柄がまとめられています。)
参考文献
Kronheimer は, Nahm方程式の解, あるいは
さて, 超ケーラー多様体の理論の応用として, 小林-ヒッチン型の定理と組み
合わせると, 二つの一見異る複素多様体が, 実は同じ超ケーラー多様体から来
ていることが分かることがある. Vergneは, このアイデアに基づき,
Kostant-関口対応を解釈した.
本講演では, 超ケーラー多様体入門[1, 2](とはいっても入門以
上の理論は存在しない)から始めて,
Kronheimer[3]やVergne[4]の結果を紹介する予定である.
参考文献
舞台は、
実半単純リー環とそのinvolution(
ここでの議論の鍵となるのは、
ベキ零元からsl(2)-triple を構成する
Jacobson-Morozovの定理、
つまりリー環の構造論である。
この構成の特徴を述べて、
次の中島氏の講演で紹介される幾何学的構成との
長所短所を比較する。
舞台が特別な場合、すなわち、
複素半単純リー環とその実形を指定するinvolution の場合には、
関口対応は
「Kostant-Sekiguchi 対応」と呼ばれることもある。
半単純リー群の無限次元表現論の文脈で良く用いられるのはこの場合である。
また、関連して、松木対応
(旗多様体上のある群の作用に関する軌道分解と
別の群に関する軌道分解が1対1に対応する)
についても述べておく予定である。
参考文献
「複素半単純リー環の表現の指標公式は Kazhdan-Lusztig 多項式
の特殊値で表現されるであろう」という Kazhdan-Lusztig 予想は、
1980年代初頭に Brylinski-Kashiwara および Beilinson-Bernstein により、
リー環の表現と旗多様体上のD-加群を結びつける
画期的な手法で解決された([7] 参照)。
その後、1980年代後半に入って、Kazhdan-Lusztig 予想
の解決で使われた手法を用いて、実リー群の無限次元表現を
同変構成可能層を用いて幾何学的に構成するプログラムが
柏原により提案された。これは Borel-Weil によるコンパクト
群の表現の幾何学的構成を、非コンパクト群の表現の
場合に一気に拡張するものである。
本講演では、柏原による一連の予想の解決の過程において
Schmid-Vilonen [4], [5],
[6] により解かれた、「表現(の
Harish-Chandra 加群)の特性多様体と表現の指標超関数の波面集合が
Kostant-Sekiguchi 対応で対応するであろう」という
Barbasch-Vogan 予想 [1] の解決のあらましについて、紹介する。
証明には、柏原により導入された構成可能層の特性サイクル
と呼ばれる概念が本質的に用いられる([2] 参照)。
Mirkovic-Uzawa-Vilonen [3] に
よる層の松木対応の超局所版を確立して、モーメント写像でリー環の
上に落とすことで、懸案であった対応が得られる。すなわち、
無限次元表現の代数的不変量(特性多様体)と解析的不変量
(指標超関数の波面集合)が、幾何学的な対象(特性サイクル)
を仲立ちにして結びつけられる、という世にも美しい理論について
紹介したい。
参考文献
関口 次郎 (東京農工大学 工学部)
はもっとも簡単な単純リー環です。
一般の単純リー環
に対して,
から
へのリー準同型の共役類は
1950年代にDynkinが分類しました。
このDynkinの論文[2]で今日Dynkin図形と呼ばれる図形を使って,
単純リー環の場合の分類を記述しました。
さらに,Kostantがベキ零軌道と
から
へのリー準同型
の共役類との関係を明確にしたことで(cf. [4]),
複素数体上のベキ零軌道の分類が完成しました。
インスタントンと巾零軌道<
中島 啓 (京都大学 大学院理学研究科)
上の
-不変
なインスタントン解のモジュライ空間が, 複素リー環の巾零軌道(一般には,
そのSlodowy slice)になることを証明し, 特に後者が超ケーラー多様体の構造
を持つことを証明した. 超ケーラー多様体は, 微分幾何学の片隅で研究されて
いる分野であるが, このように数学の中心分野で研究されている対象が超ケー
ラー多様体になることが, ときどき起こる. 他の有名な例が, 非可換ホッジ理
論における, 複素射影多様体上の半単純局所系のモジュライ空間であ
る. (Hitchin, 藤木による.)
ベキ零軌道の関口対応
落合 啓之 (名古屋大学 大学院多元数理科学研究科)
位数2の自己同型)である。
半単純対称空間の接空間が典型的な例である。
このとき2種類のベキ零軌道の間に全単射の対応が存在することを、
関口次郎の原論文に沿って紹介する。
特性サイクルの理論とその実リー群の無限次元表現論への応用について1・2
竹内 潔 (筑波大学 数学系)
加群と表現論,
シュプリンガー現代数学シリーズ
Last Modified : Feb 14, 2007 : 07:36