ENCOUNTER with MATHEMATICS ----- 数学との遭遇


第38回 幾何学と表現論 ---Kostant-関口対応をめぐって---





2006年12月 8日(金)(14:30〜18:00) 12月9日(土)(10:30〜17:00)

於 : 中央大学 理工学部 : 東京都 文京区 春日 1 - 13 - 27




12月 8日(金)

14:30〜15:20 ベキ零軌道の魅力: 関口 次郎 (東京農工大・工)

15:40〜16:40 超ケーラー多様体入門: 中島 啓 (京大・理)

17:00〜18:00 ベキ零軌道の関口対応: 落合 啓之 (名大・多元数理)


12月9日(土)

10:30〜12:00 特性サイクルの理論とその実リー群の無限次元表現論への応用について1: 竹内 潔 (筑波大・数学系)

14:00〜15:30 インスタントンと巾零軌道: 中島 啓 (京大・理)

16:00〜17:00 特性サイクルの理論とその実リー群の無限次元表現論への応用について2: 竹内 潔 (筑波大・数学系)

17:10〜 懇親会(ワイン・パーティー)





別紙の趣旨に沿った集会の第38回を以上のような予定で開催いたします。 非専門家向けに入門的な講演をお願い致しました。 多く方々の御参加をお待ちしております。 講演者による講演内容へのご案内を添付いたしますので御覧下さい。

連絡先 : 112-8551 東京都文京区春日 1-13-27 中央大学 理工学部 数学教室 tel : 03-3817-1745
ENCOUNTER with MATHEMATICS : e-mail : encmathATmath.chuo-u.ac.jp
homepage : http://www.math.chuo-u.ac.jp/ENCwMATH
三松 佳彦 : yoshiATmath.chuo-u.ac.jp / 高倉 樹 : takakuraATmath.chuo-u.ac.jp (ATを@に変更)




幾何学と表現論---Kostant-関口対応をめぐって---


概要


ベキ零軌道の魅力
関口 次郎 (東京農工大学 工学部)

単純リー環にはベキ零元というやっかいな代物が住んでいます。 ベキ零元がなければ,その構造ももう少しあつかいやすものに なっていたでしょうが,存在するために複雑になりました。 逆に言えば, そのために構造が豊富になりました。

${\bf sl}_2$ はもっとも簡単な単純リー環です。 一般の単純リー環 ${\bf g}$ に対して, ${\bf sl}_2$ から ${\bf g}$ へのリー準同型の共役類は 1950年代にDynkinが分類しました。 このDynkinの論文[2]で今日Dynkin図形と呼ばれる図形を使って, 単純リー環の場合の分類を記述しました。 さらに,Kostantがベキ零軌道と ${\bf sl}_2$ から ${\bf g}$ へのリー準同型 の共役類との関係を明確にしたことで(cf. [4]), 複素数体上のベキ零軌道の分類が完成しました。

有理2重点とDynkin図形の関係が注目されるようになり, それを単純リー環のベキ零元との関係へと深化させたのが GrothendieckとBrieskornの成果です(cf. [6])。 一方では,Harish-Chandraは不変固有超関数の研究において, Kostantの構造論を使って,ベキ零多様体に台をもつ 不変固有超関数は存在しないという, Local integrability theoremの鍵となる結果を導いています (cf. [3])。

この講演では複素数体上の単純リー環のベキ零元について, 基本的な事柄と上述のことを解説する予定です。 ([1]にはベキ零軌道についての基本的な事柄がまとめられています。)

参考文献

1
D.H.Collingwood and W.M. McGovern: Nilpotent Orbits in Semisimple Lie Algebras, Van Nostrand Reinhold Mathematics Series.

2
E. Dynkin: Semisimple subalgebras of semisimple Lie algebras, Amer. Math. Soc. Transl. Ser. 2, 6 (1957), 111-245.

3
Harish-Chandra: Invariant distributions on Lie algebras, Amer. J. Math., 86 (1964), 271-309.

4
B. Kostant: The principal three-dimensional subgroup and the Betti numbers of a complex simple Lie group, Amer. J. Math., 81 (1959), 973-1032.

5
草場公邦: 行列特論, 基礎数学選書21(裳華房)

6
松澤淳一: 特異点とルート系, すうがくの風景6(朝倉書店)




インスタントンと巾零軌道<
中島 啓 (京都大学 大学院理学研究科)

Kronheimer は, Nahm方程式の解, あるいは ${\mathbb{R}}^4$上の$SU(2)$-不変 なインスタントン解のモジュライ空間が, 複素リー環の巾零軌道(一般には, そのSlodowy slice)になることを証明し, 特に後者が超ケーラー多様体の構造 を持つことを証明した. 超ケーラー多様体は, 微分幾何学の片隅で研究されて いる分野であるが, このように数学の中心分野で研究されている対象が超ケー ラー多様体になることが, ときどき起こる. 他の有名な例が, 非可換ホッジ理 論における, 複素射影多様体上の半単純局所系のモジュライ空間であ る. (Hitchin, 藤木による.)

さて, 超ケーラー多様体の理論の応用として, 小林-ヒッチン型の定理と組み 合わせると, 二つの一見異る複素多様体が, 実は同じ超ケーラー多様体から来 ていることが分かることがある. Vergneは, このアイデアに基づき, Kostant-関口対応を解釈した.

本講演では, 超ケーラー多様体入門[1, 2](とはいっても入門以 上の理論は存在しない)から始めて, Kronheimer[3]やVergne[4]の結果を紹介する予定である.

参考文献

1
N.J. Hitchin: Monopoles, minimal surfaces and algebraic curves, Séminaire de Mathématiques Supérieures 105, Les Presses de l'Université de Montréal, 1987.

2
N.J. Hitchin, A. Karlhede, U. Lindström and M. Rocek: Hyperkähler metrics and supersymmetry, Comm. Math. Phys., 108 (1987), 535-589.

3
P.B. Kronheimer: Instantons and geometry of the nilpotent variety, J. Differential Geom., 32 (1990), 473-490.

4
M. Vergne: Instantons et correspondence de Kostant-Sekiguchi, C.R.Acad. Sci. Paris Sr. I Math., 320 (1995), 901-906.




ベキ零軌道の関口対応
落合 啓之 (名古屋大学 大学院多元数理科学研究科)

舞台は、 実半単純リー環とそのinvolution($=$位数2の自己同型)である。 半単純対称空間の接空間が典型的な例である。 このとき2種類のベキ零軌道の間に全単射の対応が存在することを、 関口次郎の原論文に沿って紹介する。

ここでの議論の鍵となるのは、 ベキ零元からsl(2)-triple を構成する Jacobson-Morozovの定理、 つまりリー環の構造論である。 この構成の特徴を述べて、 次の中島氏の講演で紹介される幾何学的構成との 長所短所を比較する。

舞台が特別な場合、すなわち、 複素半単純リー環とその実形を指定するinvolution の場合には、 関口対応は 「Kostant-Sekiguchi 対応」と呼ばれることもある。 半単純リー群の無限次元表現論の文脈で良く用いられるのはこの場合である。

また、関連して、松木対応 (旗多様体上のある群の作用に関する軌道分解と 別の群に関する軌道分解が1対1に対応する) についても述べておく予定である。

参考文献

1
D. Barbasch and M.R. Sepanski: Closure ordering and the Kostant-Sekiguchi correspondence, Proc. Amer. Math. Soc., 126 (1998), 311-317.

2
T. Matsuki: The orbits of affine symmetric spaces under the action of minimal parabolic subgroups, J. Math. Soc. Japan, 31 (1979), 331-357.

3
J. Sekiguchi: Remarks on nilpotent orbits of a symmetric pair, J. Math. Soc. Japan, 39 (1987), 127-138.




特性サイクルの理論とその実リー群の無限次元表現論への応用について1・2
竹内 潔 (筑波大学 数学系)

「複素半単純リー環の表現の指標公式は Kazhdan-Lusztig 多項式 の特殊値で表現されるであろう」という Kazhdan-Lusztig 予想は、 1980年代初頭に Brylinski-Kashiwara および Beilinson-Bernstein により、 リー環の表現と旗多様体上のD-加群を結びつける 画期的な手法で解決された([7] 参照)。

その後、1980年代後半に入って、Kazhdan-Lusztig 予想 の解決で使われた手法を用いて、実リー群の無限次元表現を 同変構成可能層を用いて幾何学的に構成するプログラムが 柏原により提案された。これは Borel-Weil によるコンパクト 群の表現の幾何学的構成を、非コンパクト群の表現の 場合に一気に拡張するものである。

本講演では、柏原による一連の予想の解決の過程において Schmid-Vilonen [4], [5], [6] により解かれた、「表現(の Harish-Chandra 加群)の特性多様体と表現の指標超関数の波面集合が Kostant-Sekiguchi 対応で対応するであろう」という Barbasch-Vogan 予想 [1] の解決のあらましについて、紹介する。 

証明には、柏原により導入された構成可能層の特性サイクル と呼ばれる概念が本質的に用いられる([2] 参照)。 Mirkovic-Uzawa-Vilonen [3] に よる層の松木対応の超局所版を確立して、モーメント写像でリー環の 上に落とすことで、懸案であった対応が得られる。すなわち、 無限次元表現の代数的不変量(特性多様体)と解析的不変量 (指標超関数の波面集合)が、幾何学的な対象(特性サイクル) を仲立ちにして結びつけられる、という世にも美しい理論について 紹介したい。

参考文献

1
D. Barbasch amd D. A. Vogan Jr.: The local structures of characters, J. Funct. Anal., 37 (1980), 27-55.

2
M. Kashiwara and P. Schapira: Sheaves on manifolds, Grundlehlen der Math. Wiss. 292, Springer-Verlag 1990.

3
I. Mirkovic, T. Uzawa, and K. Vilonen: Matsuki correspondence for sheaves, Invent. Math., 109 (1992), 231-245.

4
W. Schmid and K. Vilonen: Characteristic cyles of constructible sheaves, Invent. Math., 124 (1996), 451-502.

5
W. Schmid and K. Vilonen: Two geometric character formulas for reductive Lie groups. Jour. A.M.S., 11 (1998), 799-867.

6
W. Schmid and K. Vilonen: Characteristic cyles and wave front cycles of representations of reductive Lie groups, Ann. Math., (2) 151 (2000), 1071-1118.

7
谷崎俊之,堀田良之:$D$加群と表現論, シュプリンガー現代数学シリーズ




Last Modified : Feb 14, 2007 : 07:36