ENCOUNTER with MATHEMATICS ----- 数学との遭遇


第41回 Euler 生誕 300 年-- Euler 数と Euler 類を巡って





2007年9月28日(金)(14:30〜17:40) 9月29日(土)(10:30〜17:00)

於 : 東京都 文京区 春日 1 - 13 - 27
        中央大学理工学部3号館3階 中央大学高等学校小ホール


いつもと建物が異なるのでご注意下さい.




9月28日(金)

14:30〜16:10 群の Euler 数 I: 秋田 利之氏 (北大・理)

16:30〜17:50 Euler class of surface groups acting on the plane: Danny Calegari 氏 (Caltech/東工大・情報理工)


9月29日(土)

10:30〜12:00 オイラーとトポロジーの誕生: 松本 幸夫氏 (学習院大・理)

14:00〜15:00 群の Euler 数 II: 秋田 利之氏 (北大・理)

15:30〜17:00 〜オイラー類を越える日は来るのか?〜: 森田 茂之氏 (東大・数理)

17:10〜 懇親会(ワイン・パーティー)





別紙の趣旨に沿った集会の第41回を以上のような予定で開催いたします。 非専門家向けに入門的な講演をお願い致しました。 多く方々の御参加をお待ちしております。 講演者による講演内容へのご案内を添付いたしますので御覧下さい。

連絡先 : 112-8551 東京都文京区春日 1-13-27 中央大学 理工学部 数学教室 tel : 03-3817-1745
ENCOUNTER with MATHEMATICS : http://www.math.chuo-u.ac.jp/ENCwMATH
三松 佳彦 : yoshiATmath.chuo-u.ac.jp / 高倉 樹 : takakuraATmath.chuo-u.ac.jp (AT を @ に変更)




導入
 佐藤 肇 (名古屋大学・名誉教授)

Euler 数と Euler 類について簡単に紹介することにより、 他の講演への導入としたいと考えています。特に、

Euler の多面体定理 : 凸多面体の(面の数) - (辺の数) + (頂点の数) = 2

Poincaré-Hopf の定理 : 有向閉多様体 $ M$ 上のベクトル場の 特異点の指数の和
= $ M$ の Euler 数

などを通して、Euler 数から Euler 類へと 進んでみます。



群のEuler数
 秋田 利之

任意の群に対して分類空間(あるいはEilenberg-MacLane空間)と 呼ばれる空間が存在して、ホモトピー同値を除いて一意に定まることが よく知られています。とくに群$ G$の分類空間$ BG$が有限複体として 実現できるならば、そのEuler数$ \chi(BG)$は群の不変量となります。 従って$ \chi(BG)$を群$ G$のEuler数($ \chi(G)$と書きます)とみなすのは自然です。 例えば階数$ n$の自由群$ F_n$のEuler数は $ \chi(F_n)=1-n$となります。

$ G$が有限位数の元をもつばあい、$ BG$は有限複体としては 実現でないので、上のやり方では$ \chi(G)$を定義することはできません。 このような群(のあるクラス)に対して$ \chi(G)$の「適切な定義」を最初に 与えたのはC. T. C. Wall [5]です。 Wallの定義した群のEuler数は一般には 整数ではなく有理数に値をもちます。 WallのアイデアはSerre [3], Stallings [4], Brown [1] などにより、より広いクラスの群に広げられました。

この講演では群のEuler数の定義・性質・例などを、 上に述べた歴史を踏まえて、できるだけ平易に紹介したいと思います。 また群のEuler数は、トポロジーに起源をもつ概念であるものの、、 同時に群の代数的・群論的な性質を色濃く反映していることが知られてます。 そのような観点から、群の中心に関するGottliebの仕事、 有限位数の元に関するBrownの仕事、ホモロジカルなSylowの定理 などを紹介するつもりです。最後に群のEuler数に関する基本的な文献として [2]の第9章を挙げておきます。



参考文献
[1] K. S. Brown, Euler characteristics of discrete groups and $ G$-spaces, Invent. Math. 27 (1974) 229-264.
[2] K. S. Brown, Cohomology of groups, GTM 87, Springer-Verlag, 1982.
[3] J.-P. Serre, Cohomologie des groupes discrets, Ann. of Math. Studies vol. 70, pp. 77-169, Princeton Univ. Press, Princeton, 1971.
[4] J. Stallings, Centerless groups--an algebraic formulation of Gottlieb's theorem, Topology 4 (1965) 129-134.
[5] C. T. C. Wall, Rational Euler characteristics, Proc. Cambridge Philos. Soc. 57 (1961) 182-184.



Euler class of surface groups acting on the plane
 Danny Calegari (Caltech/東工大・情報理工)

Abstract: Associated to an orientation-preserving action of a group $ G$ on the plane there is a $ 2$-dimensional characteristic class called the Euler class. When $ G$ is the fundamental group of a closed orientable surface, the Euler class can be evaluated on the fundamental cycle to give a number, the Euler number of the action. The famous Milnor-Wood inequality gives constraints for what Euler numbers can arise in the analogous case of surface group actions on the circle. For the plane, there are no such constraints at the topological level, but for $ C^1$ or higher differentiability, a vestige of Milnor-Wood remains, manifesting in a kind of dynamical rigidity for $ \mathbb{Z}\oplus \mathbb{Z}
$ actions. We will discuss this rigidity, and give the complete homological classification of actions of surface groups on the plane, in every degree of smoothness.



オイラーとトポロジーの誕生
 松本 幸夫(学習院大学理学部)

数年前に、トポロジーについて歴史的なことを書くように頼まれました。 それを 機に、オイラーの原論文に目を通してみましたので、紹介させていただきます。

ケーニヒスベルクの橋の問題を解決した[1]は グラフ理論の初めと言われていますが(例えば、[2])、オイラーの 論文にはグラフは登場しません。しかし、この問題がライブニッツのいう Geometria Situs (Analysis Situs)に属する問題であると, はっきり述べており、今日言うところの「トポロジー」の 問題を最初に認識したのはオイラーのようです。このため、 この論文は,「グラフ理論の初め」なの かも知れませんが、むしろ「トポロジーの初め」 というほうが正しそうです。(モンテシノス[3]が断固と してそれを主張しています。)

そのあと書かれた論文[4]は有名な「オイラーの多面体定理」 を証明していますが、証明はやや不厳密です。また、証明されているのは

面の数$\displaystyle +$頂点の数$\displaystyle =$稜の数$\displaystyle +2$

という関係式だけで、右辺を移項した式

面の数$\displaystyle -$稜の数$\displaystyle +$頂点の数$\displaystyle =2$

という式は、見当たりません。オイラーは「オイラー標数」に 気づいておらず、この公式と「トポロジー的現象」との 関係にも気づいていないようです。

なお、オイラーより早く、デカルトが「オイラーの多面体定理」 に極めて近い結論を得ていますが[5]、多面体定理自身は 述べていません。「多面体定理」の先取権はやはりオイラーにあるようです。



参考文献
[1] L. Euler, SOLUTIO PROBLEMATIS AD GEOMETRIAM SITUS PERTINENTIS, Commentarii Academiae Scientiarum Imperialis Petropolitanae 8 (1736), 128 - 140.
[2] N. L. Biggs, E. K. Lloyd, R. J. Wilson, Graph theory 1736 - 1936, Clarendon Press, Oxford. 1976.
[3] L. M. Montesinos-Amilibia, Origen de la Topología: Euler y los puentes de Könisberg, Note presented at Real Academia de Ciencias de Madrid, 2007.
[4] L. Euler, DEMONSTRATIO NONNULLARUM INSIGNIUM PROPRIETATUM QUIBUS SOLIDA HEDRIS PLANIS INCLUSA SUNT PRAEDITA, Novi commentarii academiae scientiarum Petropolitanae 4 (1752/3), 1758, p.140-160.
[5] P.J.Federico, Descartes on polyhedra, A study of DE SOLIDORUM ELEMENTIS, Springer-Verlag, 1982.



〜オイラー類を超える日は来るのか?〜
 森田 茂之(東京大学大学院数理科学研究科)

向き付けられた$ S^1$バンドル$ \xi$に対して,その底空間$ B$$ 2$次元コホモロ ジー 類として定義される オイラー類と呼ばれる特性類

$\displaystyle \chi(\xi)\in H^2(B;\Bbb Z)
$

は,そのようなバンドルの同型類の完全な不変量と なることは良く知られている. この特性類がオイラー類と呼ばれているのは, ガウス・ボンネの定理に示されるオイラー(ポアンカレ)標数との 密接な関連から当然と言えるが,(300年に比べれば) 歴史的には比較的最近のことのようである.


それはともかく,1930年代から1940年代までには, シュティーフェル・ウィットニー類, ポントリャーギン類,チャーン類, と現在呼ばれている特性類がつぎつぎと定義され, 1950年代以降の数学の開花・隆盛の先導役を果たした.


このように多くの特性類が存在するのであるが, その中でオイラー類(と第一シュティーフェル・ウィットニー類) は最も基本的なものであり,すべての特性類はある意味で それから派生して得られると言ってよい. このことはグロタンディークの分解原理(splitting principle), すなわちすべての複素ベクトルバンドルは原理的には 直線バンドルのウィットニー和と考えてよい, という事実から従う.


1960年代の終わり以降,ゲルファント・フックス理論, チャーン・サイモンズ理論,葉層構造の特性類の理論等, いわゆる$ 2$次特性類の理論が登場して来たが, それらもまだ本質的にはオイラー類の考えの枠内に あると言ってよいだろう.さらに最近, 井草およびビスム・ロット・ゲッテ等による, いくつかの高次の特性類の理論が導入され, 活発な研究が続いている.


以上のような状況を概観しつつ

オイラー類を真に超えるような特性類は現れるのか?

という問いについて,考察してみたい.



Last Modified : Apr 19, 2008 : 21:04